失恋カレンダー

失恋カレンダー 林真理子

1月〜12月までの短編が12本。月に合わせて失恋が繰り広げられる。
今まで短編は短編でも最後にエピソードがつながるものばかり読んできたため
この短編も最後で全てつながるのかと思ったらそうではない。
ひと月ずつ完結していく。スマホも携帯もなく、設定として古いなと
感じながら読んでいった。電話がメイン。最後に解説を読んで30年以上経っていると知り、驚いた。
こういう女の子いる、私もこういうこと感じた。など共感できることが多い。
スマホを始めとした技術が発達して世界は変化していっても、人間の心はそんなに変化がないのではないかと感じさせられる一冊だった。

失恋カレンダーという題名から分かるように、これは失恋を題材とした小説。
失恋する。主人公は全員女である。失恋するということは女性が蔑ろにされる。
これが同じ女としてしんどかった。
これが男性が主人公だったらこんなにも感情移入しなかったのかもしれないが、
同性だから気持ちがわかりすぎてしまう。本を読んで重い気持ちになったのは久しぶりだった。この本を読もうという気持ちにならない日も多かった。

3月の『卒業』はごくありふれたテーマを扱っており、甘酸っぱさとほろ苦さを感じさせてくれた。大学生ってこんな感じだよね。こんなイメージだから、遊んでるって思われるんだよね。と思った。大学はもっと学びたい人が学びやすくなる場所になったら日本の大学のレベルはもっと向上するのに。話が脱線した。
好きという感情なのか寂しいという感情なのか上京してきた子達が感じるであろう感情を描写していて、卒業を機に彼と別々になっていく。彼はお別れに前向きなのに、女の子は好きという気持ちが溢れている。なんとも切ない。

この短編の中で最も嫌な読後感があったのが6月の『常連客』。
嫌だったけど、嫌だったからか忘れられないこの内容。ここまで印象に残せるのはすごいと感動している。この本を読み終えて1ヶ月半くらい経っているのに鮮明に思い出せる。失恋カレンダーといったらこの内容。って。それくらい嫌な感じ。あるあるなんだろうけど。

毎日の生活に飽き飽きし始めた頃、東京の煌びやかな世界に憧れて夜の街に繰り出すようになる。芸能人を見かけるような会員制の場所に出入りする。最初は受け入れてもらえなかったのに、主人公の素直な感じを認めてくれて、受け入れてもらえるようになる。芸能人と出会えるという誰しも一度は憧れるようなシュチュエーションに私もドキドキする。しかし、途中から主人公は男性からの誘いに断れなくなってしまっていることが最後にわかる。好かれる努力の方向は間違ってはいけないと思うし、女性が男性と対等に渡り歩くには軸をしっかりしていないと負けてしまうということを考えた。

どれだけ思い合っていてもいつかは終わりが来るのだろうし、たくさんの失恋を経験して皆大人になっていく。この失恋は自分がしたことのないような失恋経験を味あわせてくれる一冊。人の人生ははたから見て口出しができるものじゃないと感じた。その時その時に誰しも様々なことを考えて決意・決断をしている。人の感情に対しては結果にいちゃもんをつけるのではなく、結果に寄り添ってあげることが必要なのではないかと感じた。

そして携帯がないといった状況の違いはありつつも、携帯がないからこそのすれ違いが上手く描写されている。だからと言って、古い感じは全くしない。いまと全然変わらない。前向きになれる本かといったらそうではないが、人の気持ちを考えるにはとてもいい一冊だったと思う。

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