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漁業とサービスデザイン

Service Design Advent Calendarへのエントリということで初めてnoteを書きます。

ここ1年半ほど平日は東京の企業でサービスデザインの仕事をしながら、週末をつかって月に1-2回ほど鹿児島の甑島(こしきしま)という離島に通ういわゆる二拠点生活を続けてきました。私が甑島に深く関わりを持つようになったきっかけは『KOSHIKI FISHERMANS Fest』という、甑島の漁師に会いに行くフェスの立ち上げプロジェクトに携わったこと。フェスのイメージは動画を御覧ください。

「漁師でない私たちが、甑島の未来、水産業の未来のためにできることは何か?」という問いを持っていた、東シナ海の小さな島ブランド株式会社 代表のヤマシタケンタさん。その問いに対する答えとしてこの『KOSHIKI FISHERMANS Fest』を立ち上げるにあたり、企画から実行まで4ヶ月ほど伴走してきました。そのプロセスを今になって振り返ってみると、サービスデザインをしていたのだなと思ったのです。

サービスデザインとは

そもそもサービスデザインとは、Service Design Network Japan Chapter代表である長谷川 敦士さんの言葉をお借りすると以下です。

サービスデザインという言葉は、欧米では、数年前に話題になったデザイン思考(Design Thinking/デザインシンキング)という概念を具体的にビジネスに落とし込む、という文脈で用いられています。

デザイン思考とは、米国のデザインコンサルティング会社IDEOが提唱した概念で、簡単に言うと「デザイナーの思考方法を使ってビジネスも考えようよ」ということです。

ここでいうデザイナーの思考方法というのは、いわゆるHCD(Human Centered Design/人間中心設計)と呼ばれる、

1.利用者/対象者を正しく知る
2.問題を定義する
3.問題解決のためのデザインをプロトタイピングしながら行う
4.デザインが機能しているかを評価する


というフローを繰り返すというものです。

『サービスデザインとは何か ~デザイン能力はサービスビジネスの不可欠要素に~』https://www.concentinc.jp/design_research/2011/12/service-design/

このサービスデザインフローにそって『KOSHIKI FISHERMANS Fest』の立ち上げプロセスを説明していきます。

1.利用者/対象者を正しく知る

まずは甑島の漁師のことを深く知ることから始めました。このとき鍵になるのは、エクストリームユーザーに着目すること。島にはすでに直販や六次産業化に取り組んでいるイノベーティブな漁師が数人いました。彼らと打ち合わせや、飲み会をご一緒させていただきお話を伺ったり、実際に漁に同行させていただいたりもしました。これはエスノグラフィ調査やデプスインタビューにあたります。その中で見えてきたのは、漁法へのこだわりや、本当に美味しいものを届けているという自信と誇り。だからこそ甑島の魚を甑島産として、胸を張って売りたい、食べてほしいという想い。そのために、本業の漁だけでなく、直販や六次産業などの新しい挑戦をしているのでした。しかし、彼らの本業はやはり漁。時間やリソースが限られている中、漁師でない私たちだからこそ、売る、届けるという点で関わりしろがありそうだと感じました。

2.問題を定義する

また、甑島の漁師が置かれている漁業の構造を俯瞰して捉えたときに、流通の課題が見えてきました。甑島には市場がないため、鹿児島本土の市場まで届けて卸します。そうすると「甑島産」ではなく「鹿児島産」としてしかスーパーには並ばないのです。甑島はきびなごの名産で、鹿児島に流通するきびなごの60%以上を生産しているのだといいます。しかし、甑島から届けられていることを知らずに私たちは日々食べているのです。これではいくら美味しいものを届けても、「甑島産」というブランドが育っていきません。一方で、市場を介さず甑島産として直販を行うとなると、離島という特性上どうしても運送費が上乗せになり価格がネックになってしまいます。スーパーに並ぶ安価なものではなく、すこし値が張っても甑島の魚を選択して買ってもらうにはどうしたらいいのか?というのが課題でした。

3.問題解決のためのデザインをプロトタイピングしながら行う

そのためには、甑島産の魚を選択する「きっかけづくり」が必要だと考えました。そこで企画したのが『KOSHIKI FISHERMANS Fest』という漁師に会いに行くフェス。年に一度のフェスの日をきっかけに漁師と消費者の間で顔の見える関係性をつくり、直販につなげていくというデザインです。

わたしは主に広報・情報発信を担当したのですが、懸念点は当日の集客。初回でどういうイベントか想像できないにもかかわらず、わざわざ甑島まで足を運んでもらうのはハードルが高いです。まずはペルソナやカスタマージャーニーをつくり、どういう人たちに、どうやってきてもらうかを整理しながら施策に落としていきました。特に有効だったのは、東京、福岡、鹿児島市、薩摩川内市にて開催したプレイベントです。各地で甑島の魚を取り寄せて、実際にさばく体験をしたり、食べたりしながらこのフェスの意義や世界観を伝えていきました。これはお客さんの生の反応をみることができ、どういうコンテンツが刺さるのかというテストマーケティングの場として最適でした。

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SNSでの情報発信でも、数字で反応を見ながらコンテンツをチューニングしていきました。例えば漁師へのインタビューコンテンツは反響が大きく、なぜ漁師になったのか?何がやりがいか?といったストーリーは刺さることがわかりました。そこでデザイナーさんが、漁師の皆さんの人となりや想いを伝えるこんなポスターを用意してくださったり。(「成果がすべて。」とか、「漁師になる。昔から決めていた。」とか、かっこいいですよね!)

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また、カスタマージャーニーに沿ってタイミングごとに必要な情報を発信していきました。例えば当日が近づいてくるにつれて、おすすめの旅程や甑島までのアクセスなど実用的なコンテンツを紹介したり。他にもローカルテレビやラジオに出たりもしましたね(笑)

4.デザインが機能しているかを評価する

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そして迎えた『KOSHIKI FISHERMANS Fest』当日!悪天候にもかかわらず、島外からもかなりのお客さんが来てくださいました。(これは奇跡的に晴れた一瞬の写真。)会場では朝獲れの魚を囲み、漁師の皆さんとお客さんが笑っている姿があり、「普段なかなか接する機会のない漁師さんと会えて、話を聞きながら美味しい魚を食べられてよかった!」「こうやって目の前で食べて美味しいって言ってもらえるのはいいですね」など、両者から多くのフィードバックがありました。

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雑誌「ソトコト」やWEBメディア「アナバナ」、他にもテレビや新聞等、各メディアにも取り上げていただいたのも、客観的な評価といえると思います。

しかし、これはまだ始まりに過ぎません。このフェスをきっかけに直販につなげるのが本来の目的。先日クラウドファンディングで160万を集め、次なるステップに向けて、甑島における漁業のサービスデザインは続いています。

さいごに

この『KOSHIKI FISHERMANS Fest』プロジェクトを通して、漁業などの一次産業や地域の課題におけるサービスデザインの可能性を大いに感じました。「よそ者」としてサービスデザイナーが地域に入ることには価値があると思います。例えば地域の人間関係やしがらみのクッションになり物事を進めやすくしたり、当事者にとってはあたりまえのことすぎて認識していない価値や課題を客観的な視点から捉えなおしたり。私個人としても、会社では既存事業のサービスデザインしか担当したことがなかったため、甑島で0→1の新規立ち上げを経験できるのはとても勉強になりました。裁量をもってサービスデザインプロセスを実践できる地域というフィールドは面白いですよ。興味を持った方はぜひ甑島にお越し下さい!

(素材提供:KOSHIKI FISHERMANS Fest 実行委員)



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