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父と娘の珍介護道中(日記的エッセイ2010〜2022)  時々、母のこと、故郷のこと、自分のこと EP3

エピソード3
藤色の着物、体重計メソッド、桧のまな板

2011-01-04

2日は実家に家族が全員集合。
療養先から一時帰宅した年男の父を囲んで、賑やかに新年を祝うことができました。

ものすごく久しぶりに、祖母からもらった振り袖を見る機会も。
その振り袖は、三味線をやっていた祖母が、
贔屓の呉服屋さんに母と私を連れて行き、あれやこれやと出してもらった反物から選んで仕立ててくれたもの。
御所車や扇がポイント的に、
豆絞りが流れるように配された薄紫色の上品な柄なんです。
私が成人式を迎えた当時のトレンドとは、全然違ったものと記憶しています。

作ってもらった当初は、振り袖なんてピンとこなかったし、
そんなに(お金を)出してくれるんだったら留学でもさせてくれた方がいいのに、
などと思うくらいでした。
が、いざ着てみるとキュッと気持ちが引き締まる。
さらに、薄紫に黄緑色の帯揚げや帯締めを重ねるなど、
晴れ着というものの大胆で美しい色使いにも密かに感動したものでした。

だいぶ後になって祖母から、
「あの色は藤井という名前にちなんだ。だから藤色なんだよ」と聞いたとき、
「その思いがあってのあれだったのか」と、すごく腑に落ちた感じがしました。
祖母の密かな思いの背景に、私の知らないたくさんの悲喜こもごもの人生があったんだよなぁとも。

ちなみに私がその振り袖を着るときに使った長襦袢は、七歳のお祝いのときに着た晴れ着を仕立て直したもの。
とはいえ、母からそう聞いた当時は、「ふーん、そうなんだ」と右から左な感じでした。

あれから長い歳月を経て、今、再びあのすべらかな絹の織物を見たとき、
祖母、母それぞれに、女性として積み上げてきた大事な思いがあったこと、
そして、それがどれだけ深かったかに、私も一人の女性としてようやくゆっくりと思いを馳せることができました。

そんな話をしたわけではないけれど、そろそろ二十歳になる姪が、
「ワーッ、きれい」と目を輝かした瞬間、
脈々と受け継がれてきた伝統や愛情というものの美しさに、
みんなが包まれている、見守られている、と、感じることができました。

もちろん、それを着ることが姪にとって義務やプレッシャーになっては本末転倒。そこもちゃんと伝えました。
きっと私も知らない様々な思いを感じながら、
二十歳になったとき姪自身が選択することでしょう。

見ていたら私自身も着物が着たくなりました。
具合が悪くなってから母が書いたと思しき「美保」というマジックの字が懐かしい
たとう紙に包まれた濃いピンクの着物が素敵なんです。
いつもTシャツにジーンズなので、なに急におしとやかなこと言ってるの? 
と、笑われちゃうかな。まず、着付けをはじめ着物のことを勉強しないとね。

2011-01-19

父には少し笑顔が戻ってきた。
寝た姿勢でカーディガンを羽織るやり方とか、ベッドからの起き方、トイレの行き方など、足腰の痛みが極力出ない方法を独自の工夫で開発したようで、
だいぶ動きの幅が出てきた。
リハビリの先生とは、今日もマッサージや筋トレの後、立ち上がる練習。
それがとても面白かったんです。

まず、座った状態で足の下に目盛り式の体重計を置く。
するとだいたい10Kgほどを指す。いわゆる足の重み。
そこから先生は「足だけの力で15Kgにしてください」と言う。
隣で同じようにやってみましたが、これがかなりの力を要するんです。

足だけの力でやるのがどれだけ大変かがわかったところで、
今度は「両手をひざにつけて15Kgにしてみてください」と言う。
すると、足だけの時よりもラクに15Kgにできました。
さらに、手をつけた状態で「今度は20Kgにしてみてください」と。
これがまたすごく大変なんです。

その大変さがわかったところで、「今度は手をはずして、体を前に倒しながら体重をかけて20Kgにしてください」と言う。
すると、それまでとは比べ物にならないくらい簡単に、
20Kgにすることができた。前傾姿勢をとると、自然と足に力が入るんですね。
つまり、立ち上がるときには、この前傾姿勢が助けになるんだよ、ということを、先生は体重計を使って教えたわけです。

足腰が痛いという意識があると、怖いからどうしても姿勢が後ろにいってしまう。すると、余計腰に負担をかけることになるし、立ち上がりも難しくなる。
父は筋トレ上では十分足に力があるので、
要領さえきちんとわかれば立ち上がりは可能。
そう判断した先生が、前傾姿勢への意識を高めようとこの体重計メソッドを取り入れてくれた。

何度も言うようだけど、父は頭で合理的とわかって行動をしたい人なので、
この体重計メソッドはドンピシャ。
「そうか、体を前にすれば立てるんだね~」と、すごく合点のいった表情を見せていた。意識を持つって大事なんですね。
とはいえ焦らず、ゆっくり、じっくり、がいちばん。

2011-01-20

ウン十年前、私が一人暮らしをするときに母が持たせてくれた桧のまな板。
黒ずんでくると父に鉋をかけてもらって、ずっと使い続けてきた。
でも、今の父にそれは無理。
どうしたもんかなぁ、新しいのを買うのはまだ惜しいなぁと、ここ数ヶ月悩んでた。

で、ある日ネットで、「まな板 鉋 サービス」と検索してみたら、
あったんです。まな板を鉋で削るサービスをしている会社が。
簡単なフォームに申し込みをして、現物を送ると、
希望通りに鉋をかけてくれて、送り返してくれる。送料込みで、1,340円!! 

これ、ビックリするほど安くありません? 
どうしたもんかなぁと思い悩んだ日々が一気に解決です。
見てください。木目がこんなにきれいに現れました。

それに桧の香がすんごくいいです。生きてるんですねぇ。
「あら~、よかったわね」と目を真ん丸にして喜ぶ母の顔が見えてくるようでした。さーて、これで何を切ろうかな。


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