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浮世絵タイムマシン~The UKIYO-E 2020

浮世絵を観るときの、あの不思議な気持ちを、何と言いあらわしたらいいのでしょう。

西洋の油絵や、近代以降の日本画を観るときとは、まるで違う感覚。

一般的な絵画が目で「見る」ものだとしたら、浮世絵は「体験する」ものという感じがします。

形や色の情報だけでなく、音や匂い、感触や温度まで、一度に立ち上がってきて、身体ごと江戸時代に放り込まれるような。

450枚超、ボリュームたっぷりの展覧会です

東京都美術館で開催中の展覧会「The UKIYO-E 2020」を観てきました。

三大浮世絵コレクションが一堂に会する、450枚以上の大展覧会だということは事前に知っていたので、途中でへばらないようにごはんをしっかり食べて、歩きやすい靴と服装で行きます。

展覧会は、初期の浮世絵から錦絵の誕生、さらに美人画や役者絵、風景画と、浮世絵の歴史をたどることができる構成になっていて、観ごたえたっぷり。

中でも錦絵は、ほかの展覧会であまり体系だって観たことがなかったので、なるほどあの線が、百年経つとこんなふうに進化するのか…などと思いながら行きつ戻りつして夢中で見ているうち、つい場内を1万歩くらい歩いてしまいへとへとになりました。

お好きな方は、1回で全部見ようと思わず、展示替えに合わせ数回に分けてじっくり観るくらいでちょうどいいボリュームかもしれません。

北斎万華鏡

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およそ60人もの絵師の作品が出品されているので、それぞれの画風を観比べるのもすごく楽しい。

「写楽の人物画は目が面白いなあ」

「歌川派の役者絵は画面いっぱいに情報が詰め込まれていて、当時からお得感があっただろうなあ」

などと思いながら450枚延々と観ていると、あることに気づきます。

北斎の作品だけ、あまりにも幅が広すぎて、「こんな画風」というのを全然大づかみにできないのです。

斬新すぎる構図の風景画。

不気味だけれどくすりと笑ってしまう妖怪の絵。

シンプルなのに印象的で、一度観たら忘れられなくなる色づかい。

浮世絵のことを何も知らない私が観ても明らかにほかの絵師とは違うのだから、本当に天才だったんだなあとあらためて知りました。

絵を描くことが心から好きで、好奇心が旺盛で、常に新しい可能性を追求し続けた、魅力的な人だったんだろうなあ。

お気に入りの1枚を体験する

そして個人的に大好きな、歌川広重の名所江戸百景シリーズ。

このシリーズだけで7点も出ていますが、中でも「猿わか町よるの景」を初めて実際に観ることができたのが、個人的には嬉しかったです。

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中秋の名月。芝居見物を終えた人びとが、興奮さめやらぬ様子で行き交う街の華やかさが、その場に立っているように感じられて、ますますファンになりました。

実際の雰囲気を伝えるなら、動画や写真、写実的な絵画のほうが優れているはずなのに、浮世絵を観るとなぜ、タイムスリップしてその場所に立っているようなリアリティを感じられるのか。

もしかすると浮世絵は、時代の空気を丸ごと写しとるトレーシングペーパーのようなものなのかもしれません。

会期は9月22日まで、あと1ヶ月以上残っています。

よかったら、お気に入りの1枚を体験しに、足を運んでみてください。


読んでいただきありがとうございます! ほっとひと息つけるお茶のような文章を目指しています。 よかったら、またお越しくださいね。