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【内海哲也】努力は裏切らない、と教えてくれた人
内海哲也は歴史上1番「応援したくなるエース」だったと思う。
本来エースというのは、圧倒的な存在であることが多い。
近年のジャイアンツで言えば、桑田真澄、上原浩治、菅野智之。
もちろん本人たちの心の中では悩みや孤独感はあるだろうが、他を寄せ付けない存在感というか、登板日は「今日は安心だ」と思わせる力があった。
内海にはその存在感や安心感がなかったというわけではもちろんないのだが。
内海の登板日は、打たせて取るピッチングスタイルもあって、エースひとりの力で勝つというより、「みんなで勝った」感のある試合が多かったと思う。
親しみやすい性格もあって、より応援したい気持ちが増す選手でもある。
ジャイアンツにあった派閥や投手・野手の壁も薄くした。後輩の面倒見もとても良いし、人から慕われている選手。
いつも底抜けに明るく見えるが、悩みもたくさん垣間見えた。
エースとして奮闘していた時代、優勝争いをしている8〜9月に口元にヘルペスが出来ていたこともしばしば。
人間味が感じられて、より応援に熱がこもったなあ。
でも、応援したくなる1番の理由は他にある。
とにかく、とにかく、彼は「練習をする」のだ。
毎年1月の「内海組」自主トレは若手でも悲鳴を上げるほどきついメニューが組まれている。
とにかく走り込みをして下半身強化。
最近は賛否両論あるけれど、私が信用する桑田真澄さんが言うには、「プロになったら必要なこと」。
ジャイアンツ球場での練習を観に行っても、とにかく朝早く来て、いつまでも練習をしているような人。
これだけやるからプロの世界でトップにいられるんだろうな、と思う選手。
でも、だんだんと結果が出なくなっていく。
内海が打たれると「またかよ」「なんでこんなやつ使うんだよ」「もう終わったな」。
すべて、私が現地観戦した際に近くにいたファン(こんなやつら私はファンというかもはや正常な人間とすら思ってないけど。その選手のこと好きな人が近くにいるかもしれないのにそんな発言しちゃうのまわり見えてなすぎ!ばーかばーか!!!)から実際に聞いた声だ。
「内海さんがどれだけの努力をしているか見てもないしわからないのに、なんでこの人たちはこんなことが言えるのか」。
私はすごくすごく悔しくて、その場で言い返しそうにも、殴りかかってしまいそうにもなった。
でも、ぐっとこらえた。
大丈夫。こんなに努力を積み重ねられる人なのだから、絶対、絶対に結果が出る。絶対に。
ここで私が言い返さなくても、内海さん本人がきちんと見返してくれる。そう思った。
結果が出ない数年の間も、内海が変わらず毎日コツコツ、一生懸命練習しているのを見ていた。
絶対この選手はここで終わらない、という確信があった。
「努力は裏切らない」って言葉があるけれど、裏切ることもあると思う。
でも、内海さんは違うと、根拠はないけれど思っていた。
その日は来る。
2018年7月31日、横浜スタジアム。
とっても良い内野席を抑えて、ひとりでのんびり観よう!と意気込んでいたが、その日は「STAR☆NIGHT」というベイスターズファンが楽しみに待つイベントだったということをすっかり忘れていた。
むしろ、よくベイスターズファンを抑えて良い席取れたな、というレベル。
着いてみたらビジター三塁側の席にも関わらず見渡す限りベイスターズファンのどアウェイ状態。
仲間はレフトスタンドの1/3ほどのみ。
ひとり観戦なんて慣れっこだがさすがに気まずいな〜と思うほどだった。
でも、その日の先発投手は内海哲也。
5〜6回を投げ、試合をしっかりつくることが多い頃。近年では抜群に安定していた。
気まずい雰囲気の中だけれど、今日も内海さんがしっかり抑えてくれることをひたすら祈って過ごそうと目の前の試合に集中した。
ジャイアンツは序盤に順調に得点するが、ベイスターズ側のスコアボードにはあれよあれよという間に「0」が並ぶ。
ドキドキしながらついに9回を迎えた。
9回のマウンドに上がる内海を見たのはいつぶりだろうか。
夢のようだ、けど、夢じゃない。
ずっと、ずっと、この日が来ると思っていた。
信じてやまなかった。この選手の努力が報われないなんて許せない。
でも、夢みたいだ、、、
一度もホームを踏ませず、ゲームセット。
笑顔で拳を上げる内海とは逆に、私は涙が溢れて止まらなかった。
「努力は裏切らないんだ」。
神様はちゃんと見ていてくれる。
いや、神様なんていなくても、内海さんが自分で手繰り寄せた結果。
ずっとずっとこうなると思ってた。
ずっとずっと観たかった、景色。
球場で泣くなんて、由伸さんの引退セレモニー以来2回目。数え切れないほど野球観戦をしてきたけれど、試合でははじめてだった。
ひとりで泣いているジャイアンツファンを見かねた近くにいたベイスターズファンの方が、「良かったね。今日は完全に内海にやられたよ」と声をかけてくれた。それでまた泣く。
のちに知ったことなのだが、その前にチャンスは充分に与えたとの判断で、2018年シーズン、内海は構想外だったという。
実際、2軍スタートで開幕を迎えたのだがこの結果。
ほらね!内海さんほど頑張っていれば結果が出るの。
…
その年のオフ、由伸監督退任で酷く落ち込む私に追い討ちをかけるように「内海哲也移籍」のニュースが舞い込む。
仕事中に知ったけれど、一生懸命、一生懸命平常心を無理して保って、上がって帰りのエレベーターを待つ間にぷつんと緊張の糸が切れて、そこから泣きながら電車に乗って帰った。
また人前で泣いた。
なんでプロテクトしてくれなかったの。
結果もそうだけれど、もっと別の、態度や行動でチームの柱だった選手なのに。
失っていいとでも思ったのか。
西武ライオンズはラッキーだなとすら思った。
それに、ライオンズに望まれて行く内海哲也がすごくすごく誇らしかった。
大丈夫、内海さんはライオンズでも絶対に柱になるよ。
…
明日の(もう日付変わったから今日か)、西武ライオンズ戦。
相手先発投手は、内海哲也。
内海が移籍して、はじめて1軍の舞台で敵として戦う。
いや、ごめんなさい。
明日1日は、ジャイアンツを応援できない。
見返してほしいの、ジャイアンツを、世間を。
努力は、何にも勝らない、裏切らないものってことを。