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「サイダーは親しくなれない憧れの友達みたいだった」ー寝る前に読みたい1冊

小・中学生の頃、年に数回、写生大会があった。

おおきな画板をもって好きな風景を選び、近くへ腰かけ、えんぴつで風景を下書きしていく。どうやったら目の前に広がる景色を1枚の画用紙の中に収められるのだろうかと、書いては消し、書いては消し、やがてあきらめて適当に線をひっぱった。

そして水彩絵の具で色付けをしていく。当時の私には嫌いな作業だった。水っぽいその色は見たものをそのまま映し出さないし、ぼんやりとしていてうまく塗れない。濃く塗ろうと何度も重ね塗りをしては、ざらざらの紙に吸収しきれず破けそうになっていた。

そんな苦手意識の強かった水彩絵の具なのに、最近になって急に使いたいと思い始めた。あの淡い色で、ぼんやりとした絵を描きたい。その思いは1冊の本を読むうちに、どんどん膨らんでいった。


「サイダーは親しくなれない憧れの友達みたいだった」

おーなり由子さんの『きれいな色とことば』の中には、心華やぐ色とりどりの水彩絵の具や、まるでリズムをきざむようなことばの表現が、とても魅力的に遊んでいる。

「青いたからもの」「夏の色」「橙色のチャイム」など、それぞれ色をテーマにした章が用意され、コロコロときれいな音が聞こえるようなことばが連なりエッセイが書かれている。

たとえば見出しに挙げた「サイダーは親しくなれない憧れの友達みたいだった」からは、しゅわしゅわと音を立てる真夏の下のサイダーが思い浮かぶ。

なかでも私がすきなのは、愛らしいオノマトペがたくさん使われているところだ。

「てぷん、てぷん、と音をたてるような、まるい裸の女の人が、ふたりで洗面器の前にすわっている」
「たぷんたぷん、と、おなか。
おしり。てのひら。朝の匂い。」
「ずいぶん低い鉄棒。さわってみると、きのうの雨で、棒の下にはぶら下がるような水滴が、おわん型に一列にならんでいる。指で端からぽちょぽちょとなでてつぶす。
ぽたたん。ぽとん。ぽちゃん。」
「ぱらら、ぱらら、ヘリコプターの音」
「ぶあつい白い春の風。
ぶあんと吹いて、花びらがいっせいに舞う」

やさしくてカラフルな色がページいっぱいに広がり、ことばと合わさり、私の目や心を楽しませてくれる。

どうしてこの色の魅力に気づかなかったのだろう。こんなにきれいな色なら、私も作ってみたいなあ。

そんな憧れを抱いて、この本を閉じる。小さい頃にこの本を知っていれば、写生大会もきっと楽しかったのかもしれない。

ちょっとした後悔を抱きながら、色とりどりの夢が見られるよう、寝る前に眺めてはまぶたの裏に色を移している。


このフレーズも『きれいな色とことば』からお借りしました。

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