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4つ目の扉




現在18時。新宿を歩いている。久しぶりの歌舞伎町。死ぬほどこの街が嫌いになっていた。
前は何事もなく普通に歩いていたのに。夕方も夜中も明け方もお昼も。もしかしたらこの時間が私を不穏な気持ちにさせるのかもしれない。
現在進行形のものがはっきり過去に変わった証拠。嫌な思い出になってしまったけど、あと何年かしたら、懐かしくなる。


歌舞伎町のバーガーキングのポテトはまずい。
隣でホストがいびきをかいて寝ている。




いきなり本題に入るのだが、
今回は青になる、のnoteで書いた人物についての最終章としたい。





彼は私の価値観から180度違う世界で育ち生きて、彼に触れたことで大きな変化を自身にもたらした人物。変わりやすい私に、無常の普遍を示して、無力感にさせていた。



私はこのことや彼について考えること感じることを言うことが随分長い間できなかった。
理由としてひとつ、嫌われたくないという気持ちがあったからだ。
だが、彼に嫌われてもいい、と思ったことや彼自身のその時の状況で私は、彼という人間はどういう人間なのか、見えるのか私からの目線で彼と触れてきた3年間をひっくるめて話した。





きっと日本に生きる人間の中で彼に似ている人がいるのではないか、もしかしたら
これを読んでいる人にもいるのではないか。

だから、私はそんな人に向けても、何か少しでも感じることがあればと思い、書き進めていきたい。







彼にこの話をしようと思い始めたのは、社会人はモテる、のnoteを書いてからだった。これを書こうと思ったきっかけも彼であった。
青になる、の時点ではまだ、恋愛感情に踏み出せない揺れ動きがあったと書いたが、それ以降もずっとそんな感じ。
ある意味自分の中で楽な状況であったと思う。すきな人が新しく出来て揺らめくのでは無く、傷つけられ過ぎて、ある程度諦めがつくようになったし、一緒にいて楽しい。
いつまで続くのかな、とその時も思っていた。


ある日電話をした時、彼は地元に帰省していた。
彼の中で一番自分らしくいられるという場所。いつも私にする楽しい話はここで生きた頃の話ばかりだ。
その中に3人、彼にとって最重要とされる親友がいて、電話越しにその親友たちとも話したことがあるため、彼らは私の存在を知っている。そこで私の話が出たと、彼は話し始めた。



めちゃくちゃに短縮する。思い出しただけで胸糞悪い。(そこで私は彼に引っかかっている可哀想な東京の女1とされていたのだが、具体的には文字化しません。)





その話を聞いた時、私は
ああ、私この人のこと好きじゃない。と思った。
情だろうがなんだろうが、彼と触れ合う価値は青になったり、社会人はモテる、と考えられたことで終わった。
そう、これまでの記事に書いてきた中で彼から学んだことは沢山あった。でももう、学べることはない。そして、もう愛せない。
そう思ったことから、彼に本当に思っていることを話そうと思った。







彼はさまざまなトラウマを抱えている。
ここに書けるライトな事など無い。




そのトラウマの中で、彼が一番傷ついたことはこの街、東京で起きた。

彼は、ちょっと過激なんじゃ無いかと思うほど東京を毛嫌いしている。東京にいる人間をひとまとまりにして否定する。そうではないと、彼が触れた人々を通して思うこともあるらしいが、大半はハロウィンで年越しで年号越しで渋谷に集まる人間たちのような頭をしている東京のやつら。




その中に私はいる。





ただ単に彼は出会った人が悪いんだと思っていた。すきだった頃。
でもそれは違った。3年経たなきゃ分からなかった。





彼はそのトラウマを通して、心に4つの扉を用意した。



1つ目の扉。知り合い程度の人に開ける扉。ごく簡単に開けられる。
2つ目の扉。知り合いから友達になった人に開ける扉。ここまでは簡単に開けられるというか、彼の中のアンドロイドが働いて、こう言えばこんな反応するでしょ?とか嬉しいでしょ?という計算された応対でしか話さない、俗に言う心を開いていない人間に対する言動が現れる扉。ここまでの扉だけで東京にいる。

3つ目の扉。地元の友達や家族にみせる心の扉。彼にとって居心地が良く、彼にとっての自分らしさが出る扉。


そして4つ目の扉。
だれも開ける事が出来ない。彼自身も。長い長い鎖で巻かれていて、鍵が何十にもかかっている。
超天才的なピッキング技術を持ち合わせても開かない。



友達、家族、ましてや彼女ですら開けられないその扉の存在。
それに付き合っていた当初に気づいた私は、他の扉を通り越して4つ目の扉をがたがたと揺らして、爪で引っ掻き、あけろー!と叫んだ。
その時彼は私を威嚇し、一つ目の扉の前まで突き飛ばした。
ひどく傷ついた。身体はぼろぼろだし、食べられないし立てないほど。



でも私は彼のその4つ目の扉を、彼女という存在になる前に、他の扉が開いた時の隙間や、酔っ払ってアンドロイドが働かなくなった時に、しっかりと捉えていたから彼を好きになった。そう簡単に諦められる性格ではなかった。半分戦いだ。負わなくても良い傷を負って、3年戦った。


色々な作戦を練った。だって、ただ言葉にするだけじゃ聞き入れて貰えないから。30歳の男をはたちそこそこのお嬢ちゃんが変えてみせようなんて、無謀で阿呆らしい。でもやるしかないと思えるほどの愛情が私にはあったらしい。




その電話は4時間続いた。はじめは地元に帰った話、私がどんな風に地元で思われているかの話、幼馴染に告白された話。
その幼馴染は彼を変わったと言って説教をしたという。彼のアンドロイドにも気づいた。それを幼馴染から言われて彼は聞き入れた。




今だ、と思った。
今、その緩んだ4つ目の扉に手をかける時だ。今までじわじわと知らないふりをして近づいたその扉に私は立ち、嫌われてもいいという気持ちが私を強くして、語りかけることを決めた。





彼にこの4つ目の扉があること、4つ目の扉に手をかけた人間を突き放すこと。

そして、彼は、1.23の扉で強く見せているだけで、4つ目の扉の中にいるのはただ傷つきたくない弱い脆い小さな人間だということ。
人に愛され愛したのに裏切られた時のことを恐れ、薄くて軽い思いの質量しか誰かに渡せないこと。




それはとても悲しくて、寂しくて、どうしようもなく虚しいこと。





分かりやすく、小さな子供に語りかけるように話した。




彼は思いのほかすんなりとその話を最後まで聞いた。
自分でもその存在に気づいていなかったと言って気づかせてくれてありがとう、まで言った。




今までだったらここまで言わせないまま突き飛ばされていたから、少しは彼を変えられたかな、と思ったが、でもやっぱりこの言葉も、1つ目の扉の前にいる私へ発するアンドロイドの言葉だった。
彼がこれからどうなるか、私の言葉を少しは聞いていたのか、今は分からない。





彼とはもう連絡はとれない。取る手段がない。
この携帯一つでつながった2人から、携帯を無くせばいいだけだから。
私は全ての連絡を取れないようにした。





東京という街に暮らすと、心が荒むだとか病むだとかみんなよく言う。地方から上京してきた人に良く聞く言葉。
テレビに映る新橋や渋谷には4つ目の扉を閉ざしたままお酒を飲んで何か理由をつけて騒ぎ、楽しそうな笑顔を振りまく人間でいっぱいだ。

社会、というものに理不尽なことで叩かれたり、嫌なことが積み重なったり、それこそ誰かに裏切られて鍵を閉めた扉を持つみんな。
私にも小さいけどその扉はあるはず。





でもね。






その扉の中にいる子は絶対弱いままじゃない。
傷付くけどしっかり治る事が出来る。
その上パワーアップする。



傷付く数はみんな平等だと思う。神様がその人に与える、乗り越えられる傷しか私たちにはつかない。
でも扉を閉めたままでいれば、傷つかないのではなく、扉の前にたくさんのナイフを突きつけられたまま動けなくなってしまう。
次開けたらその数の分だけ増えたナイフが自分に突き刺さるから。



分かりやすくいえば、彼のように、アンドロイドになって自分の本心が自分で分からなくなったり、人の愛し方が分からなくなる。







だからもしそんな人がこのnoteを読んでいたら。





かっこ悪くても、ダサくてもいいから
その扉を開いてほしい。





これ以上あなたを傷つけさせたくない。

自分が思っているより、

かっこ悪い弱い自分を受け入れてくれる人はいる。






現在21時半。歌舞伎町から駅に向かう道。
声を掛ける男性。扉は全て閉まったまま。
ナンパやキャッチで出会った人を貴方は愛せるの?
大通りには、ビクともしないピエロの大道芸。
私は扉の無いピエロにときめいた。



そんなライブハウスからの帰り道。

    





彼のいない世界で、私はしっかり、また誰かに傷つけられ、また強くなる。


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