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「音楽家も社会貢献が出来るよ!」と教えてくれたニューヨーク - Why KYMN? Reason 2

これは7日間連続記事「Why KYMN?どうしてわざわざボーカルユニットを作ったか」の2回目です。私のバンドKYMN(カイム)の初のオンライン・コンサートを記念して連載します。今回のテーマは「音楽家も社会貢献が出来るよ!と教えてくれたニューヨーク」。
この連載には「自己実現のヒント、ビジネスのヒント、人付き合いのヒント、人生のミラクル、友情の大切さ」などなどが登場します。コンサートは2023年3月22日と24日に実施します。ブログと合わせてお楽しみください!

社会貢献には、若い頃から興味があったほうだと思う。

父も母もボランティアを自然にする人たちだったし、すぐ下の妹は元看護師で、看護師資格が必要なボランティアにたくさん参加していた。下の妹も周りの方をいつも助けている優しい子で、私もいつも

どうしたら役に立てるのかな?

とずーっと思っていた。

「社会貢献」
「誰かの役に立つ」
「ボランティア活動」

こういう言葉って、誰でも、本当は憧れがあると思う。誰かの役に立って喜んでもらえるってすごく嬉しいし。人間の本能には、役に立ちたい、喜ばれたい、という願望が深く刻まれていると思う。

でも、じゃあ
どうしたら
おせっかいじゃなく、本当に喜んでもらえる活動ができるの?

そこがはっきり見えていなかった私に、ガッツーん!と刺激をくれたのが他ならぬニューヨークだった。

あなたの芸術は、どう社会貢献するんですか?と聞かれて。


移住2年目に出逢ったバイオリニスト・作曲家のMeg Okura ちゃんがある日こう言ってきた。「みぎちゃん、ちゃんと助成金とか応募してる?取れるはずだから、どんどん取らないと。」

助成金?それっておいしいの?状態だった私に、在米期間がわたしよりずっと長いメグちゃんは色々教えてくれた。

◎米国にはアーティスト活動をサポートする助成金がたくさんあること
◎影響力の大きなアーティストはみな、官民両方からの助成金をもらって活動していること
◎助成金を得ていることはステータスにもなり、良いアーティストであることの証明にもなること
◎だから私たちのような移民アーティストはどんどん取ったほうがいいこと
◎新人向けからベテラン向けまで、ありとあらゆる助成金があること

そして、ものすごく大事なこととして教えてくれたのが「助成金の応募書類には、私は何故このアートをやるのか、を書かなければいけない」という鉄則だった。

  • 私はなぜこのアートをやりたいのか

  • 私はこの作品で世の中をどう変えようと思っているのか

  • 私は何のために音楽家をしていて

  • 自分の作品でどうやって社会貢献するのが夢なのか

これはショックだった。

こんな質問、日本で一度も聞かれたことないよ!!とまず驚愕。
と、同時に、ラッキーだ!!!と私は思った。

だって私はずっと、社会貢献がしたかったんだから。社会貢献がしたいけれど、音楽家はどうせ、生ぬるい貢献しかできないんでしょって社会から言われそうだと思っていつもビクビクしていたんだから。

311東日本大震災の後の、音楽家たちの暗く重い表情を私は忘れることができなかったから。それで、こういう考え方に、なっちゃったのだ。

あの時、心の底から「他の職業でなくてごめんなさい」と私は思った。ドクターや看護師のようにけが人の治療がしたかった。大工さんのように家の再建を手伝いたかった。せめて重いものが運べたり、大量の料理を一気に作る能力があったり、そういう力が欲しかった。でもひ弱で身体も小さい女性ミュージシャンのわたしは、それらのどれひとつとして出来なくて、周囲の音楽家も皆、同じ思いでつらそうだった … 。

だけど、ニューヨークは違うらしい。

わたしが、どういう風に音楽で社会貢献したいかを、質問してくれるの?

私がそれを話したら、聴いてくれる人がいるの?

ほんとなの?にわかには信じられなかったが、本当にそうだという。それを知って、私は本当に驚いた。

「アートは人の心を動かし、社会を変えることが出来る。あなた達アーティストは素晴らしい。」


メグちゃんは最後に「この団体素晴らしいよ!」とJerome Foundation(ジェローム基金)という団体の名前を教えてくれた。早速彼らのメーリングリストに登録しておいたら、数年後「新しい助成金を作ります。新人アーティストを育てるための助成金です。説明会をするのでどうぞ来てください」とメールが届いた。申し込み、いそいそと会場へ向かった私を待っていたのが、私の人生を変えるスピーチだった。

ステージにいたのは、Benというジェローム基金の当時のプレジデント。応募方法や仕組みの説明を全て終えたあと、集まった新人アーティストたちのほうをくるっと向き、真剣な声で語りはじめた。

"みなさん、僕たちは、この新しい助成金が、皆さんにとっての本当の助けになるよう心から願い、祈っています。4000人を越えるアーティストに長時間に渡るインタビューをし、分かったんです。新人アーティストにはお金と時間とメンターが全て必要だって。だから、それが全部お渡しできるように、制度を全部変えることにしました。

まず、これまでの助成金をほぼ全て廃止して、全ての予算をこの新しい助成金に注ぎます。サポート期間は2年間、その間相談が出来るメンターを用意します。お渡しできる助成金は2年で500万円です。新人が勉強に打ち込み、自分を飛躍させるにはこのくらい大きな援助が必要だと分かったのですから、やるしかありません。

みなさん、みなさんは素晴らしいのです。アートには、人の心を動かす力があります。人の心が動けば社会が変わる。それをする能力を持っているのが皆さんなのです。僕たちは素晴らしいアーティストが安心して力を伸ばし、飛び立って行くための最初の手伝いがしたい。

だからこんなに真剣なんです。あなた達は、素晴らしいんだ!」

私は、大粒の涙を流して泣いてしまった。こんなこと、誰にも一度も言ってもらったことがない。なんてすごい団体なんだろう…。Benの前には長蛇の列が出来て、みんな応募の仕方などを質問していた。私も勇気を出して列に並び、自分の番が来た時に言った。

「私は質問はないんです。ただ、あまりにも感動して、本当にありがとうございました、と言いたかったんです。わたし、必ず応募します。」

Benは、最初ちょっと面食らって、でも満面の笑顔で「是非応募してね、わからないことがあったら、ここに連絡して質問していいから」と連絡先が書かれたカードをくださった。

私なりの社会貢献を繰り返して、一緒にやってくれる仲間がほしい、と思った

ほどなくして応募要項が発表され、この3つの重要な質問が書かれていた。

  1. あなたは何故、アーティストをしているのですか?

  2. あなたのアートで、あなたがやりたいと思っていることはなんですか?

  3. あなたのアートは、聴衆にどう受け止められていると思っていますか?

私は何ヶ月もかけて、必死で自分の情熱を書きあげた。

私は311東日本大震災を経験している。あの時、物理的な助けは何も出来なかったけれど、音楽に心を癒やす力があることは痛感した。傷つきすぎたボロボロの心には、何の言葉も入っていかない時がある。そういうときでも、歌詞のないやさしいメロディやハーモニーなら染み込むと知って、私はこれをやりたいと思った。これは、リクルート時代『じゃらん』の編集デスクをしていたときには全く見つけられなかった社会貢献の仕方で、私はこの音楽のチカラをもっと信じたい。もっとこの探求を深めていくために力を貸してほしい…。

結果、彼らは私を採用してくれた。


あれから、私は音楽で社会貢献が出来ることの嬉しさにずっと浸っている。

あれからどれだけの社会貢献プロジェクトを、様々なチャンスや助成金を頂いてやってきただろうか。

東日本大震災の経験を元にしたプロジェクト Unbreakable Hope and Resilience の際には、戦いと分断の今の世の中に「レジリエンス(困難からの復活)を信じられるような芸術がどれだけ必要か」を必死で説いた。私は震災後にどうやって音楽が人のこころを癒してきたかを実際に見たんだ、だから、この私に、人のこころを癒す音楽を作らせてくれ!と必死で助成金に応募しまくった。結果、NY市からの大きな助成金をはじめ3つの助成金のトリプル受賞をいただいた。

アジア人ヘイトクライムが増加した2021年には、アジア人を代表してリンカーンセンターで演奏するというお仕事を頂いた。これはコロナ禍からNY市が復活しつつあった時期だったから、あのミギーの「レジリエンス(復活力)」にまつわる曲を演奏してもらおう!と一本釣りで指名いただいたお仕事だった。やらせていただけて、泣けた。

確か800人ほどのニューヨーカーがつめかけてくださったのだった。
対面のコンサートが久しぶりで、嬉しくてありがたくて、終わった後本当に泣けてきた。

去年2022年には、アジア人ヘイトクライムを無くそう!という集まりに呼んでいただき、作家のミンジン・リーさんの後に登壇してスピーチと演奏をしたら、私の次がNY州知事のスピーチだったのには驚愕した。(当時の記事はこちら)

ありとあらゆるチャンスをニューヨークでいただき、本当に忙しかった私。仲間がほしい…と思い始めていた。ひとりで全部やるのが辛くなってきていた。こういう思いを一緒に感じて、一緒に歩んでくれる仲間を見つけたい…その思いは日々強くなっていった。

ニューヨークはいつも私の活動を応援してくれた。日本でも何かやらなきゃ!


仲間が欲しいという気持ちを感じていたころ、もう一つ感じていたのが「日本の関係性がとても薄くなっているな」ということ。コロナで行き来ができない状況は、とてもはっきりと、私と日本との関係を邪魔していた。

当時メディアから見える日本の様子はとてもさみしいものだった。ギスギスしていたり、つらそうだったり。ちょっとなにかあるとすぐ炎上してしまうし、若者は未来に夢を持てなくなっている感じがした。

日本でも社会貢献がしたい…私はそう思い始めた。何かしたい、何かやらなきゃ、何をやろう…そんなことを考えていた時、日本に戻って演奏できるチャンスが転がり込んできて、「出会い」の回にも書いたように、KYMN(カイム)のみんなとの再会があった。

「音楽で社会貢献する」というライフスタイルが明確になり、カイムのみんなとの再会があり … それがどうやって具体的に今の活動につながっていったのかを次回は「ことばと音楽」と題して書いてみたいと思う。

そちらも、読んでくださったら嬉しいな。


KYMNの初めてのオンラインコンサートは2023年3月22日(水)19:30~と3月22日(金)21:30~の2回に分けて実施されます。皆さまとお会いできますよう。

22日のチケット購入はこちら。それぞれの日程で違う楽曲・内容をお届けします。
24日のチケット購入はこちら。それぞれの日程で違う楽曲・内容をお届けします。


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