辛いことは、ズルズル引きずりながら生きていく。（で、出来る限りのめいっぱいをやる）

（イラスト：坂本奈緒）

今私はうるうるしています…感動。号泣。

頑張ってNYで作っているシングル曲に、今日、遂にソロが乗っかったから！

私にとってはこの曲は、ライフワークなんです。これまでの10年を総括する、大事な大事な曲で。自分の気持ちにきちんと沿う音だけを1音1音選んで大切に作曲してきたから、ジャズで最も大事なソロが今日乗っかって、お人形やだるまに目を入れたときのように「表情が見えるように」なって、だから、なんだか、泣いています。

重くのしかかってくる思い出ってありますか？

みなさんには、どうやっても心に重くのしかかってくる思い出ってありますか？私にはあります。311の翌年2012年の9月に文化庁から頂いた奨学金でNYに渡ってきたときの、フライトの中での気持ちが、それなんですよね。

もっと世の中に良いインパクトを与えられる音楽家になりたい！そのためにはNYに行く必要がある！と気づいて応募した文化庁の「新進芸術家海外研修制度」。合格して渡航できることになった年が、たまたま311の翌年で。

被災地はまだ瓦礫だらけ。

復興なんて全然始まったばかり。

そんなときに、国の予算から出ている文化庁の奨学金を頂いて、NYに自分の芸術を深めに行くことは、果たして正しいことなのか...ガレキ撤去のボランティアに行くべきではないのか...勉強して医師免許や看護師免許を取って被災地へ行くべきではないのか…その日から始まる1年の音楽留学にワクワクする余裕もなく、罪悪感とプレッシャーでいっぱいのフライトでした。

それから10年。

振り返ってみると、私は、”あの時頂いた奨学金にふさわしい芸術家・人間にならないといけない”というその気持ちいっぽんで、ずっと頑張り続けてきた気がするのです。

引きずりながら歩いていくと筋力がつく

2年前にふと、そのことに気づいた私は、311から10周年の2021年に何かしらの作品を残そうと決めました。何もしないと、きっとわたしは後悔するな！って分かっちゃったからね。それでこのプロジェクトを始めたのです。

Unbreakable Hope and Resilience（意訳：希望の光を消すことはできない）と名付け、311の震災で人生が変わった方々を取材させていただきました。その取材で出会い、すっかり仲良くなっちゃった高橋匡美（きょうみ）さんと話したことが、まさに今の私を表すようなお話で。

過去にあった辛いことって、消えないんですよ、消したくても。忘れられないし。でもね、引きずりながら生きていくことなら、できるんですよ。引きずりながら歩いていく間に、段々筋力がついていって「あれ〜まだ引きずってるけど段々歩けるようになってきたなあ」って思えるようになる...現実ってそういうことだよね、って匡美さんとよく、笑いながら話すんですよ。

匡美さん（中心）と息子さんの颯丸くん（左）とわたし。

私は「希望の花の種」を配りたい

10年経って、私は、あの時頂いたものにふさわしい人になったかなあ？そう考えると、キツイんです。成れた！って思えないから。

だけど、成れたか成れなかったかは別として、今の私が出来ることを全力でやるだけならば、できるんですよ。だから私は311から10周年になる3月にシングル曲を出すんです。

今はね、「希望」を配りたいんですよ。希望って花の種みたいなところがあってね、配ると、あとで、受け取ってくださった方の心のなかで、花開くんですよね。

このプロジェクトで取材した皆さんが、すっごくいい言葉をたくさん教えてくださってね。希望でこころがいっぱいになるような美しい言葉ばっかりだったから、それを曲にしたんです。希望の種がたくさん、音の中につまっているのですよ。

私より上手に出来る人もいるかも。でも、それは関係ないんだよな。

「今の私に出来る範囲で」しか出来ないから、世界には、私よりもっと上手に出来る人もいるかもしれない...けど、そんなのは、関係ないんだよな。

わたしが、めいっぱい、希望を配って歩きたいから

わたしがやりたいから

だからやるんだぜ！

コロナ禍がひどいNYで。スタジオが閉鎖だから、全員自宅で録音したけど。お友達を失って辛い日が長かったから、元気が出なくて1曲しか新曲できなかったけど。それでも、10年間引きずりながら生きてきた証としてさ、今できる範囲での希望をお見せするだけでも、いいよね！

そんな思いの詰まった曲に、素晴らしいソロが届いて、とにかく私は今感動しちゃって感動しちゃって、感動のバイブレーションが止まらないので、それを記録したくてこれを書いてみました。きっと誰かが、受け取ってくれるよね、この種を。おはな、たくさん咲くといいなあ…よし！引き続き頑張ろう！