幽霊よりも怖いこと

あの子が夜中に外へ出た。
「ダイエットのために走りに出る」と。
私は懐中電灯とスマホを握る。

真っ暗だった。
田舎の夜道は本当に真っ暗になる。
虫の音だけが連なって
あたりの静けさを際立たせる。

いつの間にか、あの子は私がいなくても
夜道を歩けるようになっていた。

「怖いからついてきて」
なんて言うあどけなさはもう
どこを探しても無いのだと知る。

大切な何かがすり抜けていくような、
そんな錯覚。不意に立ち止まる。

風が異様に冷たかった。
草のしげる駐車場で「幽霊」を見たと
隣の家のお兄さんは言ってた。

本当は知っていた。
私が何を恐れていたのか。

懐中電灯の明かりが
何も無い駐車場を照らす。

幽霊なんて見えなくて、
私ひとりがそこにいた。

この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?