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読書日記「オルガ」

「朗読者」で有名なドイツの作家ベルンハルト・シュリンクの新刊。読んだ後心が揺さぶられ、愛とは何かを考えさせてくれる小説。

作者について

1987年にヴァルター・ポップとの共著による推理小説『ゼルプの裁き』で作家デビュー。1993年『ゼルプの欺瞞』でドイツ・ミステリ大賞を受賞。1995年に自身の少年時代を題材にした『朗読者』を発表、ドイツ、アメリカでベストセラーとなり39か国語に翻訳された。またこの作品はドイツ語圏の作品で初めて『ニューヨーク・タイムズ』紙のベストセラーリストにおいて1位を獲得し、2008年には『愛を読むひと』として映画化もされた。
-Wikipediaより引用-

内容

北の果てに消えた恋人へ、あなたは誰のためにそこに行くのか。女は手が届く確かな幸せを願い、男は国家の繁栄を求めて旅に出た。貧富の差や数々の苦難を乗り越え、激動の20世紀ドイツを生きた女性オルガ。彼女が言えなかった秘密、そして人生の最期にとった途方もない選択の意味が、最果ての町に眠る手紙で解き明かされる――。ひとりの女性の毅然とした生き方を描いて話題となった最新長篇。
-Amasonより引用-

感想

この本は3部構成となっており、第一部は三人称でオルガの半生が語られ、第二部は語り手のフェルディナンドがオルガとの出会いを語り、第三部ではフェルディナンドが入手した彼女の手紙で、オルガの秘密が暴露される。

第一部は、貧しい家庭に生まれたオルガが、農園主の息子ヘルベルトと恋仲になる。裕福な家庭ではないのだが、性格が真っすぐで向上心が強いオルガのキャラクターに私も心惹かれた。

驚いたのは、まだ10代だったオルガとヘルベルトの会話。デート中にニーチェのことを語り合っている。さすが、哲学の国、ドイツの若者だ。こんなことは日本では考えられないだろう。

二人が恋に落ちるシーンも詩的で美しい。ヘルベルトの両親や妹は二人の交際を認めようとはしないが、若い二人の恋は燃え上がっていく。

やがて、オルガは教師となり、ヘルベルトは戦争へと行ってしまう。離れていても二人の恋は続いているのだが、ヘルベルトの家族は二人の結婚を認めようとしない。

その後ヘルベルトは北東島を探査する計画を立て、オルガを置いて遠征に行ってしまう。なぜ、恋人と別れても旅を続けようとするのか、私には理解できなかったのだが。

私が印象に残ったのは、以下の部分だ。

突然全てが現実になった。喪失も別離も、痛みも悲しみも。オルガは泣き始め、涙が止まらなかった。 

強く生きてきたオルガが初めて、人としての弱さを見せる部分。この部分はとても共感できたので、読んでいて泣きたい気分になってしまった。

第二部では、フェルディナンドがオルガとの出会いについて詳細に語っている。既にオルガは高齢となっており、教師も解雇され、高熱のために耳が聞こえなくなっていて、裁縫で生計を立てていた。そんな中で幼いフェルディナンドと出会い、信頼を深めていく。

まもなく、物語は怒涛の展開となり、思いもよらない方向へと話が進んでいく。

第三部ではフェルディナンドが見つけたオルガの手紙によって、驚くべき秘密が語られる。朗読者の時も感じたが、シュリンクは期待以上のストーリーテラーだ。

オルガがヘルベルトに向けて書いた手紙はどれも愛情にあふれ、そして物悲しい。愛情を感じながら、相手の欠点に怒りを感じ、引き裂かれそうな思いを抱える。

最後にオルガが取った行動はあまりにも衝撃的で、私にとっては忘れられない。時代に翻弄されながら、それに抗おうとした一女性の勇気ある行動とも言えるかもしれない。

私達は当たり前のように仕事をすることができるが、あの時代に生きたオルガのように、女性だからといって機会を奪われた先人たちのことを忘れてはならない、と思った。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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