読書日記「冷静と情熱のあいだ」
愛し合いながら別れる羽目になった男女が再び結ばれるまでを描いた作品。この小説は男性からの視点を描いたBluと女性側の視点から描いたRossoがあるが、今回はRossoについての紹介。竹野内豊とケリー・チャン主演で話題になった映画の原作。
作者について
江國香織
1987年の『草之丞の話』で童話作家として出発、『きらきらひかる』『落下する夕方』『神様のボート』などの小説作品で人気を得る。2004年、『号泣する準備はできていた』で直木賞受賞。詩作のほか、海外の絵本の翻訳も多数。父はエッセイストの江國滋。
-Wikipediaより引用-
内容
穏やかな恋人と一緒に暮らす、静かで満ち足りた日々。これが私の本当の姿なのだろうか。誰もが羨む生活の中で、空いてしまった心の穴が埋まらない。10年前のあの雨の日に、失ってしまった何よりも大事な人、順正。熱く激しく思いをぶつけあった私と彼は、誰よりも理解しあえたはずだった。けれど今はこの想いすらも届かない―。永遠に忘れられない恋を女性の視点から綴る、赤の物語。
-Amazonより引用-
感想
阿形順正は、私のすべてだった。
あの瞳も、あの声も、ふいに孤独の陰がさすあの笑顔も。
もしもどこかで順正が死んだら、私にはきっとそれがわかると思う。どんなに遠く離れていても。
二度と会うことはなくても。
冒頭のこの文章を読んだ時、私は衝撃を受けた。この物語は私の物語なのだ、と咄嗟に思った。
ミラノのジュエリーショップで働くアオイはアメリカ人の恋人のマーヴと一緒に暮らしている。
優しくて知的でいつもアオイを愛してくれるマーヴ。友人たちにも素敵な恋人と羨ましがられている。しかしアオイの心はどこかひんやりとしている。
マーヴとセックスする時もどこか淡々とした印象のアオイ。それは降りしきる雨の情景がそんなアオイの心情を語っている。
マーヴに愛されながらもアオイは常に冷静でいる。恋人に対する思いというよりは、まるで別の風景でも見ているかのようだ。
時々アオイの脳裏に思い浮かぶ東京の風景。それは失った過去の痛みを思い起こさせる。
そんなアオイを動揺させるような出来事が起こる。アオイはイタリアの日本人学校と日本の大学で共に過ごした崇と再会する。
崇と出会い昔の恋人だった順正の話題が出てしまう。それはアオイにとっては忘れがたい心の痛みだった。
崇と再会してからアオイは順正と罵り合って別れた時のことを思い出してしまう。順正から拒絶されたことは、アオイにとっては全世界から拒絶されたことと同じだった。
その後崇からアオイの話を聞いた順正から、アオイ宛てに手紙が来る。彼女が過去にしたことについての理由を知り、謝る内容の手紙だった。手紙を読んだ後もアオイの指は震える。
常に冷静でいたアオイが愛する順正の手紙で凍っていた心が溶けた瞬間だった。アオイは日本にいる順正に電話をするがすぐに切ってしまう。
アオイの変化を敏感に感じ取ったマーヴとは喧嘩になり、結局は別れてしまうことになる。
その後アオイは本来の順正に対する情熱を露わにし、自分の気持ちに正直に生きるようになる。自分の気持ちに正直になることで、彼女は失った愛を手に入れることができるのだ。
この物語は私にとっては他人事ではない。例え別れても自分にとって一番愛せると感じるならば、ずっと愛し続けることだろう。
あまりにも共感しすぎてしまい、本を読んでずっと泣いてしまった。順正と罵り合って別れたところ、電話をしてしまうところなど、これは自分と同じだと思ってしまった。
小説は単なる物語ではない。一つ一つの物語は私たちの人生をなぞっている。この小説も私の人生を照らす宝石となることだろう。
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