見出し画像

『おーい でてこーい』を読んで

星 新一作 講談社 青い鳥文庫
『おーい でてこーい ショートショート傑作選』より


あらすじ( ネタバレ有り)

台風が去って、青空が広がる中、昔からあった社ががけくずれで流されてしまった。直径1mくらいの穴があいていて、中は暗くてよく見えない。
「おーい でてこーい」と穴にむかって叫んでみたが底からはなんの反響もなかった。石ころを投げこんでも底からはやはり反響がなかった。

穴をしらべるため学者がきたが、どこまで深い穴なのかはわからない。利権屋がやってきて「穴をください。埋めてあげます」と名乗り出た。
穴を手に入れた利権屋は「原子炉のカスなんか捨てるのに絶好でしょう」といって原子力発電会社と契約した。
村人はちょっと心配したが、数千年は絶対に地上に害はないと説明され、利益の配分をもらうことでなっとくした。

お役所は機密書類を捨て、伝染病の動物実験の死体や浮浪者の死体など処分に困るものが捨てられた。海に捨てるよりいいからと都会の汚物をパイプで流し込んだりもした。

ある日、建設中のビルで働いていた工員が「おーい、でてこーい」という声を聞いた。空をみあげても何もなかった。
その後に小さな石ころが落ちてきたが、彼は気がつかなかった。 

ここでお話は終わります。
読者は、その後に起きることを想像して、ぞっとします。あれ?とおもった時には、もう手遅れなんだと気づきます。

これが書かれたのは66年前

この話が最初に同人誌に発表されたのは66年近く前、1958年8月だそうです。
ちょうど1年前の1957年8月には、東海村の実験用原子炉で日本初の原子の火がともりました。
2年前の1956年には水俣病が公式に確認されますが、原因が有機水銀と確定するのは1968年で、12年もたってからでした。
星新一氏の先見の明には驚きしかありません。

福島原発事故の後始末

福島原発事故の後、もし星新一氏がご存命で、ショートショートを書いたらどんなものになってきたのでしょうか。
福島原発事故から13年経っても、東電も国も廃炉の最終形を具体的に明らかにできません。
昨年8月、東電は、まだ「汚染の残る処理水」を「汚染のある海水」で希釈して、関係者の理解も同意もないままに海に放出することを始めました。
原子炉の中に水が入ってくるのを止められなければ、汚染水が発生し続け、ずっと海洋放出を続けるしかありません。
そもそも溶け落ちた核燃料=燃料デブリを取り出さないと廃炉の目処は立ちませんが、まだ耳かきいっぱいさえ取り出せていません。しかも取り出した後どこへどう処分するのかとかは何も決まっていません。

高レベル放射性廃棄物の地層処分

原発の究極のごみ「高レベル放射性廃棄物」を地下300m以深に埋める計画になっていますが、こちらもなかなか進んでいません。
300名を超える地学の専門家などが「世界最大級の変動帯の日本に、地層処分の適地はない」という声明を出しましたが、国の審議会はまともな対応をしていません。
(*詳しくは  note 「高レベル放射性廃棄物を地層処分できる場所は日本にはない」という声明に国はどう答えるのか に書きました)

核燃料サイクルは破綻しているのに

そもそも高レベル放射性廃棄物のガラス固化体のキャニスターは使用済核燃料を再処理するからできるもの。高レベル放射性廃棄物の地層処分で先進国といわれるフィンランドのオルキルオトで処分されるのは使用済核燃料です。
高速増殖炉もんじゅが廃炉となり、核燃料サイクルは破綻したのに、国は「全量再処理方針」を固持しています。

せねばならんからせねばならん

大島堅一 環境哲学チャンネル 
「原発の60年運転どころか、60年超運転が現実に」
Youtube(https://www.youtube.com/@envphilosophy)

この番組の最後の方(22分20秒あたり)で、大島先生が原発しないといけないのというのが「せねばならんからせねばならん」という自己催眠の状態になっている、理屈自体がなくなってきていると発言されていて、まさにそうだ!!と思いました。
高レベル放射性廃棄物の地層処分も、核燃料サイクルも「せねばならんからせねばならん」状態になっているのです。

脱原発を!

この記事が参加している募集

#読書感想文

191,135件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?