見出し画像

「高レベル放射性廃棄物を地層処分できる場所は日本にはない」という声明に国はどう答えるのか   =5月2日 第3回 特定放射性廃棄物小委員会 地層処分技術WGで感じた違和感


「日本に地層処分の適地はない」という声明

昨年10月30日、地学の専門家ら300名以上による声明が発表されました。

「世界最大級の変動帯の日本に、地層処分の適地はない
現在の地層処分計画を中止し、開かれた検討機関の設置を」というタイトルの声明で原子力資料情報室のHPに声明文と賛同者名簿が掲載されています。

https://cnic.jp/50160

「激しい変動帯の下におかれている日本列島において、今後 10 万年間にわたる地殻の変動による岩盤の脆弱性や深部地下水の状況を予測し、地震の影響を受けない安定した場所を具体的に選定することは、現状では不可能といえます」(声明より抜粋)

声明について岡村先生が説明

3月29日の第2回地層処分技術WG では、この声明・提言の内容について岡村 聡先生(北海道教育大学名誉教授)が参考人として招致されて説明を行いました。

地学専門家による地層処分の声明について 
2024年3月29日  岡村 聡(北海道教育大学名誉教授)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/radioactive_waste/geological_disposal/pdf/002_01_00.pdf

「文献調査報告書の取りまとめ基準の「評価の考え方」は、変動帯においては、北海道胆振東部地震で明らかになったように、内陸型地震がどこでも生じうることや、能登半島地震で明らかになったような深部流体に起因する地震、また従来の音波探査では明らかにしえない海底活断層があることなどについて十分考慮されていない。これら最新の知見に基づいて、再検討すべきである」
このように声明発表以降の2024年1月1日に起きた能登半島地震も踏まえた内容になっています。

「委員からの意見」は一般的な原発推進論

5月3日第3回地層処分技術WGでは、議題1が「この声明について」となっており、資料1 「地学の専門家等による声明に関する 参考人及び地層処分技術WG委員からの 御意見について」https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/radioactive_waste/geological_disposal/pdf/003_01_00.pdf

の5ページには「第2回WG後に委員から頂いた追加御意見」があります。第2回の会議が終わったあとで電話やメールで委員から意見をもらったようです。これを読むと、一般的な原発推進の意見で、参考人の意見に対する専門家の意見としてはあまりにも的外れに感じます。こんな意見を会議のあとで集めて、配布資料に、しかも無記名で載せるという感覚に違和感を感じます。
第2回WG後に委員から頂いた追加御意見
⚫ 我々の生活に必須な電気の一部は、原子力発電で賄われています。我が国は、エネルギー資源・ 化石燃料の大部分を輸入に頼っていますが、原子力発電が他の発電と併用されている理由は、エネ ルギー資源の安全保障上のリスクを低減するための最適なエネルギーミックスを実現するためです。
⚫ 原子力発電から生じる放射性廃棄物の処理を海外に委託する訳にもいかず、何の対策もないまま に無責任に後世に問題を先送りすることを避けるためにも、この地層処分技術をより安全な形で実 現していく必要があると思います。

絶対安全にできるなんて我々は一度もいわない

同じ会議の議題2 「文献調査報告書(案)で整理する概要調査等での留意事項及び新知見への対応 について」では、長縄委員*が以下のようなとても正直な意見を発言しました。
「深度推定が非常に難しい」、「どこまでやってもわからないところが残る」、「わからないのが当たり前」、「何があったらどうするか対応策を考えておくのだが、この資料にはそういうところがみえなくてすごく不安」、「事故が起きたらどうしらたらいいのか、あまり聞いたことがない」
あまりにも正直な発言でびっくりでした。
*長縄 成実委員  秋田大学大学院国際資源学研究科教授 (石油技術協会推薦)
こんな根本的な疑問が委員から出されても、審議会は淡々と進んで行くことにも違和感を感じました。

文献調査の適否の評価基準は極めて不十分

参考資料1「第 2 回地層処分技術 WG の国および NUMO の考え方への意見」岡村聡(北海道教育大学名誉教授)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/radioactive_waste/geological_disposal/pdf/003_s01_00.pdf

では具体的に、寿都町・神恵内村の脆弱な岩盤特性について、北海道胆振東部地震に代表される内陸型地震について、海底活断層の評価について、黒松内低地断層帯と連動地震、寿都の深部流体起源の低周波地震という四つの項目について科学的な論点で、能登地震の最新情報もいれて言及しています。
結びは「国および NUMO が留意事項として、今後も情報収集と検討を進める (NUMO)、知見の蓄積状況を踏まえながら検討していく(国)との回答は、地層処分場の 適否の評価基準としては極めて不十分であると言わざるを得ない」となっています。
文献調査報告書(案)については今後も議論を続けていくことになりました。

放射性廃棄物を増やさないで量を確定する

福島原発事故の翌年、2012年9月「高レベル放射性廃棄物の処分について」日本学術会議が6つの提言を行いました。
1 高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策の抜本的見直し
2 科学・技術的能力の限界の認識と科学的自律性の確保
3 暫定保管および総量管理を柱とした政策枠組みの再構築
4 負担の公平性に対する説得力ある政策決定手続きの必要性
5 討論の場の設置による多段階合意形成の手続きの必要性
6 問題解決には長期的な粘り強い取り組みが必要であることへの認識

日本学術会議回答「高レベル放射性廃棄物の処分について」
2012年9月12日

https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-k159-1.pdf

特に3の「暫定保管および総量管理を柱とした政策枠組みの再構築」という提言が重要だと思いました。総量管理とは発生する高レベル廃棄物の量を確定することです。どれだけの量の廃棄物が発生するのかを確定しないまま処計画は進められないというまともすぎる提言です。しかし、12年経っても、国は総量管理どころか原発を再稼働して、どんどん放射性廃棄物を増やしています。

自分たちに都合のいい意見だけを聞く

この特定廃棄物小委員会地層処分技術WGに限らず、原子力関係の審議会は自分たちに都合のいいことを言ってくれる専門家をたくさん集め、厳しい意見を言ってくれる委員はほんのわずか。委員が批判的な意見を言っても、根本的な疑問を呈してもただ聞くだけで議論になりません。
今回の「声明」について「そもそも原発をどうするのか」から根本的な、そして科学的な議論がなされ、それが原子力政策に実際に反映されることを強く望みます。

総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会特定放射性廃棄物小委員会地層処分技術WG(第3回)動画https://www.youtube.com/watch?v=4tlXsI6Kcvk


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?