見出し画像

妊娠8か月のコロナ感染妊婦が自宅分娩し赤ちゃんが亡くなってしまったニュースを見て

まず最初に。この記事は昨日から報道されているコロナに感染された妊婦さんのニュースです。
この報道をされることで、ママが辛い思いをしているのではないか、ここまで詳細が明らかにされてしまうと、場合によっては個人が特定される可能性があります。それでも報道をさせてくれたママは強いし、このようなママの勇気が今後の対応を変えるきっかけになるのだと思いました。
私も記事を書かせて頂いていますが、もし当事者さんや関係者さんの目に留まり、思い出させてしまったり、不快な思いをさせてしまったら申し訳ありません。場合によって短時間でこの記事は消去します。


ただ私たち助産師がこのコロナの感染拡大の状況下で、どのように考えて動くのか、妊婦さんやそのご家族にとっての1つの参考資料になればいいなと思って書いています。

昨日、悲しいニュースが報道されました

千葉県で30代の妊娠8か月の妊婦が、コロナ感染陽性が判明し、状態が悪化。搬送先の病院を探すも見つからず、自宅で赤ちゃんを分娩。赤ちゃんは搬送されたが亡くなってしまった。

というニュースです。職場でこのニュースを知った私と同僚は、驚き、そしてママがどんなに不安で怖かっただろうと話しました。そして少ない情報の中、状況を想像しました。自分の病院のかかりつけの妊婦さんが同じことになったら、どうなるのだろう...と

昨日の時点で分かっていた情報は

・千葉県内
・妊娠8か月
・コロナ陽性になり2日後に状態が悪化
・保険所が入院先を探すも見つからず
・本人から出血があり119番通報、再度保健所やかかりつけ医が入院先を探すも見つからなかった
・出血がありその後自宅で分娩
・赤ちゃんは搬送されたが亡くなった

この情報から、私たちが考えたこと

・初産婦?経産婦?経産婦さんなら出血してから経過は早かったはず
・切迫早産の徴候はあったのかな?お腹が張ってたとか...
・コロナの症状によるけど発熱があったらお腹は張りやすいだろうな
・妊娠8か月というけど何週だったんだろう?32週ならまだ可能性はあるけど、30週未満なら赤ちゃんは自力では呼吸ができないし、生まれてすぐの蘇生が必要だな
・千葉のどこだったんだろう?場所によっては搬送先までだいぶな時間がかかる
・コロナ陽性になった時点でかかりつけは入院できる大きな病院などを探さなかったのかな?

などの疑問が。

そして

・保健所はどの程度のスピード感で入院先を探したんだろう?保健所に電話が繋がらず、1週間以上も自宅療養が余儀なくされている人がたくさんいるのに
・東京ならスーパー母体搬送のシステムがあるけど、千葉はないから搬送先が決まらなかったのかな?
・コロナ病棟に空きがない現状、コロナ陽性のママを管理でき、かつ緊急で帝王切開ができ、生まれた赤ちゃんを治療できる施設 となると、かなり厳しいのが現状なんだろう
・ママはどんなに怖かっただろう...コロナ陽性ってだけでも不安なのに、自分も辛い中、お腹が張り赤ちゃんが家で生まれてしまった。必死に119番通報したんだろうな。

と話していました。

そして

本日もう少し詳しい情報が

・千葉県柏市在住
・妊娠29週の30代女性
8/11 コロナ感染が確認され軽症のため自宅療養していた
8/14 呼吸器症状が悪化 中等症相当と診断された→保健所が入院先を探すも見つからず
8/17 保健所に「腹部の張りがある」「出血がある」「陣痛ではないか」と連絡→保健所、かかりつけ医などが入院先を探すも調整がつかない
8/17夕方 自宅で出産し本人より119番通報
救急隊が駆けつけるも既に心肺停止状態 搬送先の病院で死亡が確認された
女性は命に別状はなかった

上記であげた疑問のいくつかが報道されました。

まず29週。この週数は、赤ちゃんは一人で呼吸ができませんし、お母さんのお腹の中でしか生きられません。もし、産まれてしまったら。
すぐに小児科や新生児科の医師によって赤ちゃんが呼吸できるよう蘇生(治療)が行われます。
今回の場合はそれが行えなかった。
ママはきっと産まれてしまったことに動揺しながら119番したんだろうなと思いました。
119番通報したのは正解だったと思います。何よりもとりあえず救急車が来ます。赤ちゃんのことも心配ですが、ママの体も心配です。かかりつけ医や保健所ではなく、119番した判断は素晴らしいなと思いました。

初産婦か経産婦かまでは明らかにされていませんが、29週という週数では赤ちゃんもまだ小さく、陣痛が来たらすぐに産まれてしまう可能性が高い。
コロナで呼吸状態が悪化していたということは、お母さんも苦しかっただろうし、赤ちゃんも苦しかった可能性もある。
コロナの胎内感染や分娩時の感染はまだ研究段階の部分が多いし全例も少なく情報がない。赤ちゃんもコロナに感染していた可能性もあるかも。
発熱についての情報はないが、もし発熱もしていたら、それが原因でお腹が張ってしまって、そのままお産になってしまった可能性もあるだろうな。

自宅療養していたなら、きっと家族も感染していただろうから、家族で体調が悪い中、保健所やかかりつけ医に何度も電話をしたりしたのだろうな。

8/17保健所に出血やお腹の張りの症状を訴えた時、そこですぐに搬送先が見つかっていれば...

本人もコロナ陽性、赤ちゃんもコロナ感染が否定しきれないから、、、ちゃんとお別れができない可能性も十分にある。

柏市なら慈恵医大かな?でもかかりつけでもないコロナ陽性妊婦29週が来るとなったら、なかなか簡単には受け入れられないだろうなと思います。


コロナ妊婦の緊急の対応まではきちんと考えられていなかったことが原因と言ったらそれまでなのですが、このようなことは今どこで起こってもおかしくないだろうなと感じます。


もし私が勤めていた病院だったら…

私が勤めていた大学病院では、コロナ病棟もあり、手術室もあり麻酔科医が常駐。産科独自のICUや新生児ICUも完備していました。そして東京だったのでスーパー母体搬送というシステムがあり、その搬送先の指定病院でもありました。

もしここにこのような妊婦を搬送したいと連絡があったら...
まず産科、新生児科、麻酔科、手術室に連絡 
産科の医師がかかりつけ医から情報をもらい、それをスタッフに共有
人員を調整 手術室を確保 NICUのベッド、コロナ病棟のベッドを確保
対応するスタッフが決まったら、手術の準備と並行し、赤ちゃんの治療の準備、ママの治療の準備を開始
産科スタッフと救命科スタッフが感染対策をし救急外来で妊婦さんを受け入れ、最低限の手術に必要な検査を実施
隔離された手術室に行き、新生児科立ち合いの元、帝王切開をする
赤ちゃんが産まれたら、すぐに新生児科の医師により治療が開始
赤ちゃんの呼吸が確保できたところで、搬送用の保育器に入れ、NICUに直行
ママは帝王切開が終了次第コロナ病棟に隔離し術後の治療を行う

想像しただけでもその日は大変だし、何が起こるか分からない状況。他の仕事を後回しにしてでも、対応に追われただろうなと。


母体救命搬送システムがあったら

さっきも言いましたが、東京には母体救命搬送システム、通称スーパー母体搬送というシステムがあります。

2008年、妊婦が激しい頭痛を訴え、総合病院への搬送を試みたが7施設から断られ、たらいまわしになり、結局亡くなってしまった。(この妊婦さんは脳出血で、発症後すぐに搬送されていたとしても救命された可能性は低いと言われています)

という事件がありました。この事件を受けて東京都は緊急処置を要する状態になってしまった妊婦さんを早く確実に病院に搬送できるようにと、このシステムが作られました。
指定されているスーパー総合周産期センターは、妊婦、新生児の双方の救命ができる施設を保有し、最終的には絶対に受け入れる体制を取っています。

現在東京では13施設がこのスーパー総合周産期センターに指定されています。
この13か所で当番制を組んでおり、妊婦や赤ちゃんに緊急処置が必要になった場合、救急車を呼ぶだけで、救急隊が搬送先を探してくれます。
もちろん搬送時間が短いほうが良いので、様々な施設をあたってくれますが、どこも受け入れ困難の場合、その日の当番の病院は絶対に受け入れなければなりません。

例え病棟が忙しくても、ベッドが埋まっていても、入院患者やこれから分娩予定の患者を他の施設に搬送してまで、患者を受け入れます。

そのために予備ベッドが確保されており、24時間緊急事態に対応できる状態が維持されている施設があるんです。

東京はこのシステムが動いているので、今回のような場合には、スーパー母体搬送に乗せれば、どこかの病院が受け入れたことでしょう。ただこのコロナ禍でもしかしたら通常の母体搬送ができなかった可能性は否定できませんが。

住む場所が、かかりつけが、違うだけでこんなにも変わってしまう可能性がある。怖いですよね。


最後に

今は保健所に電話が繋がらず、8月の1週目だけでも入院できずに自宅療養を余儀なくされた患者さんが969人もいたと報道されたばかり。

コロナ陽性になる妊婦さんも増えているといいます。
産婦人科学会などが指針を出したり、対応を検討している最中だとは思いますが、もう二度とこんな悲しいニュースがないことを祈ります。

そして私たち助産師ができることは、正しい知識を妊婦さんに伝えることと、自分自身が感染しないこと、そしてかかりつけの患者さんが陽性になった場合に、いち早く動くことなんだと思います。


亡くなられた赤ちゃんのご冥福をお祈りすると共に、ママのお体が1日も早く回復し、赤ちゃんとの時間を過ごせる日や心の整理に時間をさける日が来ることを祈っています。


暗くなってしまったし、この記事を書くこと自体、正しいかどうかはわかりませんが、書かせて頂いてありがとうございました。

助産師Rでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?