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妊娠しました。退職しました。①

助産師 Beniです。
助産師として働く中で、社会全体が女性の身体のことを理解できたら、
考え方や仕組みがアップデートされて、女性がもっと生きやすくなると考え、
日々考えていることや伝えたいことを綴っています。

今回は、つい最近自分自身に起きた経験を書いていきます。
私は、女性がもっと生きやすくなる社会になるためには、助産師として自分がどのような役割を果たせるか、どんな働きができるか、ということを考えて活動をしています。
ただ、今回ここで綴る経験は、残念ながら女性が生きやすい社会とは逆の出来事となっています。
なぜそんな経験を書こうと思ったのか。
それは、専門職であっても、国家資格を持っていても、自分の身にこんなことが起こるんだということに、心底驚いたし、失望をしたから。
でも、きっと、私のような経験をしている人が、世の中にたくさんいるのではないかと思ったんです。
だからこそ、一人ひとりの女性の雇用において何が起こっているのか、知ってもらいたい。
私のこの経験を、当事者の立場から声をあげていくことに意味があると考えるから。
そういう思いで書いています。

前半(①)は患者として不妊治療に取り組みながら、看護職として不妊治療のクリニックで働くことで得た経験
後半(②)は妊娠が判明してから退職をするまでの経験です。

私事ではあるのですが、この度新しい命を授かることが出来ました。
結婚して早5年。結婚当初は妊活したらすぐにでも妊娠するだろうと考えていたのですが、予想とは反して不妊治療、最終的には高度生殖医療に取り組むことになりました。本格的に不妊治療の病院に通い始めてからは3年程度、その間、転職や引越しもあり、計4つの不妊治療の病院にお世話になりました。
そして幸いにも赤ちゃんを授かることとなりました。
不妊治療において様々な経過を辿る方がいる中で、希望が叶えられたことは本当にありがたいことだな、と感じる一方で、ここに至るまではやっぱり辛さや焦り、ゴールの見えない道を進む恐ろしさに居ても立ってもいられなくなることもありました。

職業柄、不妊治療のクリニックで働いていることもあり、
「不妊治療の当事者でありながらケア提供者でもある」という稀有な環境に身を置くことにもなりました。
その状況は、知識があるため治療方針への不安は少ない反面、四六時中「今日採卵の方は年齢が〇〇歳で、現在の卵巣機能は△△。今回が何回目の採卵。前回は・・・」とか「妊娠はできるけれど赤ちゃんが育たない」、「保険適応最後の43歳の誕生日がもうすぐ来るから焦っている」など、決して楽ではない経過を頑張っている患者さんにケアを提供しつつ、ふと今後自分はどうなっていくのだろう、という不安にも駆られるという、「不妊治療」のことを考えるモードから身も心も離れることが難しい状況にありました。
また、業務上どうしても堕胎手術や流産手術にも入らなければならない、ということも気持ちの上で、「辛いな」と思うことでもありました。
友人には「辛いなら何もそこで仕事を続けなくてもいいんじゃない?」との助言をもらったこともありましたが、でも、辛いだけじゃなく、その環境下で「得られるものがある」と感じたことが続けられた理由です。

それは、「当事者の痛み」を知ることができたと感じたから。
・こんな治療を我慢していたのか、驚くほどの治療に伴う物理的な痛み
・仕事や家庭の合間を縫って通院することの負担
・いつゴールを迎えるのかわからない状況での不安
・金銭面の心配
・夫婦間のやり取りに感じるもどかしさ

自分が不妊治療に取り組むようになってから、患者さんへの関わり方において、これまで以上に、この方がどんなバックグラウンドを持っているのか、家族構成や治療歴、通院している時の表情、治療の説明に対する反応などに気を配るようになったと感じました。

「不妊治療が辛い」ということは「注射は痛い」と同じように、言葉としては広く知られるようになっていると思います。
でも、当事者になって経験したことは、コントロールできない事柄に対するもどかしさや努力だけではどうにもできない虚無感など、これまでの学生時代や社会人経験で直面してきた困難とはジャンルの異なるものでした。
本音をいうと、不妊治療はできれば避けたかったし、自然妊娠に期待をかけて治療のステップアップに二の足を踏んだこともありました。
でも、助産師として今後様々なライフステージにある女性のサポートをしたいと考えている私にとっては、悩んで悩んで取り組んだ不妊治療は、図らずも、貴重な経験となりました。

妊娠した後の希望としては、1人の女性として、看護職者として、貴重な経験と気づきを与えられた環境の中で今後も妊娠期、出産、そして育児をしていきたいと考えていました。
就労妊婦の辛さ、ワーキングマザーの苦労、そういった経験を身をもって重ねていく。
そう望んでいました。
しかし、その希望は叶わないものとなりました。

後半では、妊娠が判明してから退職に至った経験をお話しします。



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