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奨学金と出産と少子化と

助産師 Beniです。
助産師として働く中で、社会全体が女性の身体のことを理解できたら、
考え方や仕組みがアップデートされて、女性がもっと生きやすくなると考え、
日々考えていることや伝えたいことを綴っています。

今回は、女性のキャリアと出産についてのお話です。

岸田総理が2023年2月17日、奨学金の減額返済に関して制度の見直しを検討するとの見解をしましました。
「結婚や出産などライフイベントに応じた柔軟な返済が可能になるように考えている」と。
その内容としては、学生時代に奨学金の貸与を受けた人が子どもを持った場合に、返済額を減免する、というものです。
これには、20代から30代は子育て時期と奨学金返済の時期が重なるため、返済額を減らし、子育てにお金をかけられるようにする狙いがある、とのこと。
「地方に帰って結婚したら減免、子どもを産んだらさらに減免」との案も自民党少子化対策調査会長、衛藤元少子化対策担当相より発せられていることより、教育を受けるために貸与される奨学金と結婚・出産というライフイベントが密接に関連づけられる可能性が高まっていると考えられます。

私自身、大学4年間と大学院2年間で計6年間分の奨学金貸与を受けており、現在も返済中なので、確かに「減額」となったらありがたい話ではあります。
でも、どこか違和感を持ってしまいますし、できればこの結婚・妊娠・出産を奨学金に絡めた案は検討し直す方向にいってほしいと思ってしまいます。

私が大学・大学院に行ったのは、自分のキャリアを磨きたい、もっと専門的な知識を身につけたいという自己実現の欲求によるものだったように思います。
実際に進学したことで専門性は高まったし、資格や修士号を取得することもできました。
でも、奨学金と結婚・出産がどう結びつくのか。
そもそも、結婚や出産といった項目は1人でできるものではないし、努力でコントロールしきれない繊細な分野です。
カップル両者の思いもとても重要なので、もし20代前半で結婚していたとしても、パートナーが子どもを望まない人であれば2人で話し合って子どもを持たない選択をした可能性もあります。
また、「貸したものをチャラにしてあげるよ」という姿勢がなんだか困窮している人にニンジンをぶら下げているような印象をも抱いてしまいます。
この制度ができたとして、これから進路を選択する学生が「奨学金借りざるを得ないけど、いずれ結婚して子どもも産むし進学しようか」ということにもなるか疑問を抱きますし、
「奨学金を借りちゃったけど金銭的に厳しいし、これは結婚して子どもを作らなきゃ」となるならば、この制度は残念なものとなってしまうでしょう。
一方で、私のように既に奨学金を貸与して社会人になっている人が「子どもを産んだら減免されるなら産もう」と出産したとして、1人の子どもを育てるのに2000万円程度(それ以上)かかると言われている現状で奨学金の減免額がどれほどの着火剤になるのでしょうか。

自分の人生を豊かにするために選択した教育及びそれに関連した職業と生殖を含むライフイベントとは別ジャンルの項目なのでは、という考えから、やはり違和感が拭えないのです。
「今すぐ産める人には産んでもらうにはどんな施策もなりふり構わずやるべき」(NPO法人キッズドア渡辺由美子理事長)との意見もあり、少子化に対して今現在考え得る早急な対策をしていくアグレッシブさも必要なのかもしれません。
ただ、窮地にあったとしても、女性の「産む権利・産まない権利」や多様性を認め合う社会、個々の人生の自由な選択を担保する社会のセオリーを置き去りにせず、将来の子どもたちに説明のつく施策を積み上げていきたいと考えます。

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