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神無月某日日記

某日。

休日の朝。

夫と子どもは早朝から習い事に出かけていて、私だけ遅起きの朝である。

ベッドで目覚めると、開け放された窓から初秋の涼しい空気と密やかな金木犀の香りが流れてきていた。

特別な朝の気配に、寝返りをひとつ。二度寝へ。


その夜は子どもたちが寝ついた後に、夫と庭に出て淹れたてのコーヒーを飲んだ。

庭には、子どもたちそれぞれが生まれた時に植えた記念樹の金木犀がある。

当初はどちらもひょろひょろで、これが記念樹で子どもたちの行く末は大丈夫だろうかと心配していたのだが、数年が経ち、ある程度こんもりとした木になり、毎年わずかながら花をつけるようになった。

来年は、木も子どもたちも、また一段と大きくなることだろう。

星がほとんど見えないような夜空でも金星はそれとわかるくらいに眩しく光り、金木犀の香りとコーヒーの香りが交互に鼻腔をくすぐる。

怒涛の日々の中で検討事項が優先され、なかなか話せずにいた本当にたわいもないことをゆっくりと話す。

忙しい中でぐっと凝り固まっていた心がほぐれる休日だった。



某日。

映画『四畳半タイムマシンブルース』を見に行く。

個性を煮詰めて煮詰めて煮詰めすぎてしまって、もはや焦げついているのではというようなクセの強い大学生たちが、タイムマシンを見つけた夏の1日を描いた作品。

性格も見た目もアクの強いキャラクターたちがそれぞれの思惑に沿って、画面狭しと動き回り、あーだこーだと話し回るさまが最高。


見ながら、大学時代ってこんな感じだったよなと懐かしく思い出す。

同じように個性を煮詰めまくっていた仲間たちと、エネルギーが暴発したような馬鹿騒ぎの数々。

学内かくれんぼ、闇鍋、思いつきで決まった夜から出発する電車の旅などなど。

何の結果も意味も生み出さないような、「楽しそう!」というだけでとるアクション。
今思うと、そんな中にこそ大事なものがあったように思う。


某日。

日本シリーズを見ている。

野球には全然興味がなく、人生のほとんどにおいて、野球は見たいテレビ番組を乗っ取るか、延長になり番組開始を遅らせる憎きスポーツ、というくらいにしか思っていなかったのだが。

結婚後、野球狂な夫にあれこれ説明してもらううちに、何がおもしろいのか多少わかるようになってきた。


まさか、野球を見て「今のいいプレイ!」なんて自分が言う日が来るとは。幼い頃の私から見たら「信じらんない」という目で見られるかもしれない。

ひとつでも楽しいものが増えるとひとつぶん日々が豊かになるのだよ。


そんな話をしたら、幼い私はわかってくれるだろうか。


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