見出し画像

深夜のケーキとトラウマの話

お菓子作りなんて、年に一度するかしないか、という私が、なぜいちごが入ったケーキなんぞを作ろうかという動機はただひとつ、食べたかったから。それに尽きる。

職場のお客さんが差し入れで、いちごのマフィンを持ってきてくれた。甘酸っぱいいちごとサクサクの生地が相まって、まるで売り物のようなクオリティの、そのお菓子に感動した私は、不器用ながらに、自分でレシピを調べ、作ってみた。
大失敗だった。まず、食べ物の味として成立していない。甘い、酸っぱい、しょっぱい、という概念などなく、ひと口頬張ると、顔をしかめてしまうような、そんな味。いちごの酵素が、悪さをしているような感じだが、なにが原因かわからない。慣れないことはするもんではない、と半ば開き直っていた。

後日、差し入れしてくれたお客さんに
『この前〇〇さんが差し入れしてくれたケーキ、自分で作ってみたら失敗しちゃったんですよー』と話したことろ、『今度レシピ持ってくるからね』と言ってくれた。
『こういうのはね、トラウマになる前に、解決した方がいいのよ』

そのお客さんからレシピをいただき、早速リベンジしてみた。引っ越し作業も残ってはいたが、気持ちが熱いうちに挑戦すると、うまくいく気がする。

無事完成した。
あのとき食べた味に近いお菓子が、そこにはあった。
いちごのジューシーさが生きている。生地の甘さもちょうど良い。見た目は、ちょっと遠慮してベーキングパウダーを控えめにしたせいかあまり膨らまなかったが(前回はベーキングパウダーを入れすぎたのでは、という反省点があった)不器用な自分にしてはまずまずの仕上がりだ。

トラウマをひとつ、乗り越えた。
お菓子作りは、料理と違って味見ができない点と、目分量が通用しない点で、苦手意識があった。前回の大失敗で、それは明確になった。
しかし、今回の成功で、得意分野になる、とまではいかないが、トラウマを潰すことはできた。

私の人生、トラウマばかりだ。
人間関係。勉強。恋愛。職場での失敗。
自分のせいだとはわかっていても、昔の失敗を思い出しては、激しく落ち込むことばかりだ。
他人から何気なく言われた発言への執念も深い。
嫌なことはとことん覚えている。
いつかは楽になるだろうが、今が辛いんだよ。

お菓子作りの失敗は、人生においてほんと些細だが、このトラウマを乗り越えたことは、人生において大きい。
成功体験は、なんぼあったっていいからね。

気分が落ち込むことにやることとして、自己肯定感をにらついてまとめた著者で、掃除の大切さが掲載されている。
部屋を簡単に掃除するだけで、気分が晴れやかになるとか。簡単でシンプルだが、効果は抜群である。
まず、掃除をすると物理的にスッキリする。そして、心もスッキリする。それともうひとつ。いいことした、という実感が自己肯定感を高めるのだ。

掃除の他にも、断捨離や植物の水やりでもいいのだ。
生活が豊かになることをすることで、自己肯定感が高まる。
料理、お菓子作りも然り。
美味しくできれば、なおのこと。

ケーキ作りの成功は、トラウマを吹き飛ばすだけでなく、自己肯定感を高める効果もあった。
完成し、片付けが終わること、夜の11時。さすがに眠かった。
しかし、いい休日となった。
自己肯定感の向上は、自分への課題だ。
相変わらず自分のことは嫌いだが、とりあえず何か動き出して、自分を、少しずつ愛してあげたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?