見出し画像

医療機器のHFE/UE 各国の次元の違い

こんにちは。ミドリサーチの人です。以下の会社のブログでは、医療機器のヒューマンファクターエンジニアリングに関する米国FDAの視点をご紹介しました。これは医療機器メーカーのみならず、日本を含む他国の規制当局や認証機関も知るべき内容なのかもしれません。そしてぜひオリジナルのFDAのプレゼンテーション資料も読んでいただけたらと思います。

FDAのヒューマンファクター関連の指摘

更に、2021年の米国人間工学学会のヘルスケアシンポジウムの「Human Factors Validation of Medical Devices」というワークショップでも、FDAのHF審査官のJanine Purcellさんから「FDAに提出された書類の大半がヒューマンファクターズの不備を修正するために差し戻されている」ということが報告されています。

FDAの分析によると、 2019年に提出されたものの結果は以下の通りでした。

  • 510kのHuman Factorsレビューの95%にHF関連の不備があった。

  • PMAのHuman Factorsレビューの90%にHF関連の不備があった。

  • HF試験のプロトコルレビューを求めるQ-Subの98%がHF関連のコメントを受け取った。

信じられないほど、米国FDAではヒューマンファクター関連のデータが厳しく確認されていることが分かるのではないかと思います。

FDAの要求に対応できない他国のメーカー

如何にFDAがヒューマンファクター関連データを厳しく見ることがあるかをご紹介しましたが、この分析結果が示す通り、必ずしもどのメーカーもその要求レベルについていけているわけではありません。特に他国のメーカーにとってはその厳しい要求を理解して対応していくことは大変なことです。

2023年にFDAが発行した申請時に提出を求めるヒューマンファクター関連データをまとめた「Content of Human Factors Information in Medical Device Marketing Submissions」というドラフトガイダンスについての各業界団体からのフィードバックも、FDAの意向に賛同するものもあれば非難するものもありました。AdvaMedという大手医療機器メーカーが多く参加する団体は具体的な指摘に留まり大方FDAに賛同する反面、中小規模メーカーや販売代理店が多く参加する団体は大々的に不満を述べています。これについては、別途詳しくご紹介したいと思いますが、このFDAの厳しい要求についていける企業といけない企業があるということが分かると思います。

ただ、中国NMPAもつい最近厳しい要求となるHFEガイダンスを発行した今、国際的に見てもFDAが要求レベルを下げるような可能性は低いのではないかなと個人的に予想します。

日本の状況

こういった米国の動向を知っているからこそ、日本語で見聞きするこの分野の情報が如何に残念なものであるかということを話さずにはいられません。過去の幾つかの記事では米国には専門会社やデザイン会社が存在しているとご紹介しましたが、それはまさにこのようなFDAの厳しい要求があるからということもあるのだと思います。だからこそ過去何十年にかけてこの分野が米国では発展してきたのだと思います。

でも日本は違います。過去に都内で開かれた欧州系の認証機関が実施していた医療機器のユーザビリティエンジニアリングのセミナーに参加した際に、その講師から非常に残念なコメントがありました。「Wiklundさんらがやっているようなの(Human Factors Engineering)はアカデミック過ぎて、僕ならそんなことしなくても通しますから!」と。その方はもうその認証機関にはいないようですが、それを聞いた時は日本のこの分野の認証機関はそのようなレベルだということが本当に悲しくなりました。

そしてPMDAが認証機関に対して行っている医療機器のユーザビリティに関するセミナーも規格の内容をなぞるような内容です。私はこのFDA HF審査官 Hanniebeyさんの講演や他の現/旧FDA HF審査官の話を聞いたことがありますが、彼らが説明するような、なぜそれが重要なのか、なぜそれを要求するのかという根本に迫るような説明とは違います。日本ではメーカー側にこの分野を専門とする人材が殆どいないのと同様に、規制当局や認証機関にもこの分野を専門とする人材は少ないのだろうと思います。

国力の低下

そしてメーカー側は如何に自国の規制が国際レベルで遅れていると感じていようと、面と向かってそれを規制当局に言うことはありません。普通に考えれば自分たちの首を絞めるような規制強化を要求することなどはしませんし、海外に出ていく企業は海外でその分野の専門家を雇い、グローバルレベルで対応します。自国の当局について「どうせ彼らは見ないから」と裏では嘲笑しながら。そう実際に本当に見られていないのですから。

メーカー側にいると分かりますが、絶対にこれではFDAは通らないと分かるものや矛盾だらけのものですら、日本では規制当局や認証機関から何も指摘されることはありません。日本の規制当局が指摘しなかったのに、アジアの他の規制当局が指摘してきたことすらもありました。FDAの分析で言うなら米国のHF関連の提出の初回の通過率は4%なのに、日本はほぼ100%の通過率なのかもしれません。何を見ているのでしょう。

単に規制ができても、それを正しく理解し要求する当局や認証機関がいなければ、何も始まりません。他国では如何に厳しく確認されようとも、また別の国々では大して何も見られない、指定の文書が揃っているかくらいしか見られない、それでは成り立ちません。そのような後者の国々はますます遅れをとり、議論にもついて行けなくなるのかもしれません。日本や中国ではこの規制ができたばかりです。中国では国内外のこの分野の専門家の意見を取り入れたガイダンスが出来上がりました。それぞれの国々がどう進んでいくのか、今後の動向に期待したいと思います。

参考文献:

Bailey, R. (2023, November 10). Risk Adverse: Avoiding deficiencies in submissions. Med-Tech Innovation. https://www.med-technews.com/medtech-insights/medtech-regulatory-insights/risk-adverse-avoiding-deficiencies-in-submissions/

Purcell, J. (2021). Human Factors Validation of Medical Devices. Virtual Presentation, International Symposium on Human Factors and Ergonomics in Health Care.

U.S. FDA. (2016, February). Applying Human Factors and Usability Engineering to Medical Devices: Guidance for Industry and Food and Drug Administration Staff. Retrieved from https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/applying-human-factors-and-usability-engineering-medical-devices.

Wiyor, H.D. (October 22, 2020). Risk Assessment of Medical Products in Human Factors Submissions with a Focus on EU countries. MHFN Webinar. https://medicalhumanfactorsnetwork.com/wp-content/uploads/2023/04/Risk-Assessment-of-Medical-Products-in-Human-Factors-Submissions-with-a-focus-on-EU-Countries-20OCT2020-1.pdf

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?