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「人生が退屈であることも、命に変わるほど重い絶望になる」ーここは今から倫理です。(雨瀬シオリ先生)

会社の先輩にオススメしてもらって知り、表紙から「学園モノかな…?」と思い読み始めたのですが、予想していた内容とまったく異なっていました。

この作品の概要は、高校で倫理の授業を担当する「高柳(たかやなぎ)先生」が、自分の選択授業を受ける生徒の悩みや胸のうちに耳を傾け、倫理の考えをもって「よく生きるため」の気づきを与えていくという内容です。

一話ごとに異なる生徒が主人公として高柳先生と対話を重ね、おおよそ一話で話が簡潔するような構成になっています。

作品で取り上げられている悩みは、たしかに高校生の悩みです。
しかし読んでいるうちに、今の自分の生活でも感じているのと似た悩みがあることに気づきました。
そしてその悩みはどれも、普段からあえて言葉にするほどでもない、と思っていた些細だけれどずっと自分を息苦しく感じさせていたものでした。

タイトルの言葉は、作品の1巻で出てくる高柳先生のセリフです。

他者から見ると決して大きな問題には見えなくても、失恋、家族とのわだかまり、職場でかけられた些細な言葉、そして、とくに何もすることがない「退屈」という絶望。

タイトルの言葉は少し重い言葉ですが、「どんな些細なことも、その人に命を絶つことを考えさせてしまうほどの悩み・きっかけになり得る」ということを意味していると思います。

「自分の悩みは、あの人に比べれば悩むほどのことではない」
「こんなに恵まれているはずの自分が、死ぬことなんて考えてはいけない」

自分もよくそう思うことがあります。

死を肯定しているわけではありません。
でも、もしそう考えてしまっていたとしたら、自分の存在を軽視してしまっていると思うんです。

自分の存在が大したことがないと思っているから、自分の悩みもとるに足りないと思ってしまう。

「別に、明日が来なくてもいいかも。」

そう自分に思わせてしまうほど、今自分が感じている「絶望」が重く、考える価値がある課題だということを、受け止めてほしい。
それは、きっと自分自身を大切にすることに繋がると思うんです。

雨瀬先生は1巻の巻末で、この作品を「死ぬ気で書いている」とおっしゃっています。
それと同時に、そこでは雨瀬先生が大好きだった叔母さまが、身内の些細な一言で命を絶ってしまった過去に触れられていました。

自分の存在は、自分にとって、自分が思っているよりもっと大切なものだ。

私にもそう思わせてくれるきっかけになったこの作品を、作品の中の言葉を、この文章を通して知ってもらいたい。
そして読んだ方が、自分を以前よりも少し大切に思えるきっかけになったらいいな。
そう思いこの記事を書きました。

この記事では、個人的に印象に残った言葉3つ紹介します。

少しでも気になった言葉があったら、ぜひ作品を手に取ってみていただけるとうれしいです。

1.「不安は自由のめまい」ー1巻5話 #学校は眠い

いつも授業中に寝ていて、先生の話にも耳を貸さない反抗的な生徒、「間 幸喜(はざまこうき)」。

幸喜がいつも寝てしまう背景には、毎日深夜になっても家族が家に帰って来ず、手持ちぶさたでついコンビニの前で朝方まで友達と遊んでしまう、という事情がありました。

しかし最初は反抗的だった幸喜は、ある日家で退屈しているときに「あなたと話をしたい」と言って高柳先生から渡された、先生の携帯の電話番号に思わず電話をかけます。
ひとしきり話したあと、先生は幸喜に言います。

「きっとあなたは不安だったんですね。そうでなければなんで、あなた私に電話をしたのですか?」

必ずしも学校に行く必要はない。
家で勉強するかどうかも自分次第。
望めば学校をやめて働くこともできる。

幸喜が感じていたのは、自分を縛らない自由による「めまい」という名前の不安だ、と先生は言うのです。

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今、私はありがたいことに、働く場所も与えてもらい、毎月お給料をいただけて、まだ養わなければならない家族もおらず、比較的自由に過ごしています。

でも、だからこそしばしば不安になります。

縛られず選択肢が多すぎるから、今自分がやっていることが正しく選択できたうえでの道なのかわからない。
自分が何か作品を作ったとき、わざわざ誰かに売り込みにいかなくても、SNSを通してすぐ世の中に出すことができる。

どんどん選択肢が広がるなか、自信をもってその中からひとつを選択するのが難しく、戸惑うことが増えたように思います。

まだ、私も解決策は見えていません。
ただ「自由は素晴らしい」「自由であることに越したことはない」と思っていたのが、必ずしもそうではなかったことに気づきました。

今までよく、周りを見て「自分もあの人と同じことをやらなきゃ」とどんどん選択肢を増やすたびに焦ってさらに苦しくなっていました。
今、自分に与えられている仕事を全うするという「縛り」を、自分に与えてみようと思えました。


2.「君はこの世界という演劇の一人の役者である。
役者が美しくなればなるほど、仮面ももっと美しくなる」ー2巻9話 #本当の私


説明が少し長くなるのと、いろいろ言葉に表せない共感の嵐が押し寄せた回だったので、ぜひ原作で読んでもらいたいです。

「SNSで評価されていない自分には価値がない」

そう感じていた自分が「SNSはあくまでも自分の一つの仮面だから、まず自分が自分を誇りに思えるよう、自分を磨こう」と思えた言葉でした。

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学校では「地味キャラ」として生きてきた女子生徒「安村 麻友(やすむら まゆ)」。
学校の友達には見せられないような自分の写真をSNSに投稿して授業中も投稿の反応をスマホでチェックしていた安村は、高柳先生に一度スマホを没収され反省するも、再度授業中にSNSに夢中になってしまいます。

2回目の注意のあと、高柳先生は安村と一対一で話します。
そこで先生は、安村に言います。

「人は、たくさんの仮面をかぶりながら生きている。」

「演劇」というこの世界で仮面をかぶった自分たちの役割はただ一つ、与えられた役割を見事演じること。
そして「仮面をかぶる役者自身が美しくなると、仮面ももっと美しくなる」。

哲学者エピクテトスの言葉を引用しながら先生は安村に、勉強は役者自身、つまり安村自身の内面を磨くもので、内面を磨けば安村が世界に見せる「仮面」はもっと美しくなるということを暗に伝えます。

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あまり努力できていないのに、自分を大きく見せようとしていた時期がありました。
けれど、そんな自分をSNSで見せているうちに、少しずつ虚無感を覚えるようになっていました。

「玉磨かざれば光無し」とは本当にその通りで、自分の内面を磨けていないのに、SNSや外で見られる自分を大きく見せようとしても、言葉や行動に一貫性がなくなり、いつか限界が来そうです。

他者に見られる自分ではなく、まずは自分の内面、中身を充実させていこうと思いました。


3.考えることでどこへでも飛んでいけるードラマ第8話(最終話)

いろいろ迷ったのですが、3つめはドラマの中の高柳先生の言葉を選びました。
(実際の言葉と少し違うかもしれません…もし正確な言葉をご存じの方がいらっしゃったら教えてください…(*´ω`*))

高校三年生、最後の倫理の授業が終わったとき、高柳先生は生徒に「考え続けてほしい」と言います。

今すぐ地球の反対側や、貧困、戦争で苦しむ人のもとに行くことはできない。
けれど、その場所に、その人たちに想いを馳せ、考えることはできる。
考えることで、世界のどこへでも飛んでいけるんだという高柳先生の言葉は、この作品を通して自分自身にだけ向けていた自分の意識を、他者へと向けてくれるものでした。

今、私自身「幸せになる」「よく生きる」ために自分について必死で考えています。
それはきっと、自分だけでなく、同じような悩みをもった人に出会ったときに寄り添ってあげるための力になったり、こんな風に何か悩みを解決するための手掛かりになりそうな作品を紹介する行動に変わると思っています。

自分について考え続けながら、遠い地にいる誰か、自分が少しでも力になれそうな人にも思いを巡らせながら、私も「よく生きる」ための方法を考え続けたいと思います。

(ちなみにドラマは3月上旬に最終回8話が終わりました…ドラマだからこそ表現できる高柳先生の生徒に寄りそう姿が表現されていて見事でした…)

さいごに.作画もとても良いです・・・

ちなみに最後に書くべき内容ではないですが、生徒一人ひとりの表情の書き方が、あまり他の漫画では見たことがないような独特の描き方をされているように感じました。

あまり表情を変えない高柳先生に対して、生徒の表情には恐怖心、不安感がありありと表現されています。
先生と生徒の温度感につねにギャップがあるような、そんな印象を受けました。
ぜひ言葉だけでなく、絵もじっくり見ていただきたいです。

最新巻の6巻の発売予定は、5巻が発売されてから約一年後の2021年秋頃のようです。
倫理の本も読みながら作品を創ってらっしゃるそうで、本当に「死ぬ気で書いて」らっしゃるんだなぁと、創作時間の長さからも感じました。
6巻が出るまでに何度か過去の作品を読みなおしたいと思います。

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