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花盗人



──あなたが私にくれたものは、あの桜の小枝だけ。あなたが盗っていったものは、私のすべて。

花盗人 / 乃南アサ



最早、この台詞は名言以外のなにものでもない。

この作品を読んだあとでは。



人が人を支配するとは、こういうことなんだと思う。

妻がいなければ、なにもできない夫。

確かに、そう見える。

が、真実は違う。

精神的に夫に支配され、妻は思考停止に追い込まれているようにしか、わたしには見えない。

その心の拠り所が、プロポーズのときの桜の小枝、たったひとつ。



どこで道を間違えたのか。

迷っているうちに日が暮れて、気がついたら闇のなかにいる。

帰るべき道も、進むべき道も見失う。



わたしはあると思う、こういうこと。

だからこそ、この乃南アサさんの短編集は、澱んだ底なし沼のように切ないのだろう。




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