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すぷりんぐ

 幼馴染の家に犬が来て1、2ヶ月。先日念願の顔合わせをしてきた。ゴールデンレトリバーの女の子。随分と元気で人懐っこいと話には聞いていたが、予想を上回る暴れっぷり。到着早々噛まれ舐められひっかかれ、それはそれは丁寧に歓迎された。
 興奮冷めやらぬ彼女は強制的に自室(リビング横にあるケージ)へと連れ去られた。しばらくふて寝(からの熟睡)した後、最近覚えたという「お手」と「伏せ」を披露してくれた。誰のいうことも聞かないじゃじゃ馬?犬?っぷりを見ていたので、初対面から数時間しか経っていないのに成長を感じて感動。それでも歩き回る時に尻尾がビュンビュン動いてしまっている姿に素直さを感じずにはいられない。
 もうすぐ12kgに到達しそうな大きな体でありながら、歩き方が辿々しくて転びそうになったり、5分前まで暴れ回っていたのに爆睡したりと忙しない。至って真面目なのだが、このアンバランスさがとっても可笑しい。君のその純朴な喜怒哀楽はどこからやって来たんだい?
 「まだ生まれて3ヶ月だからね。」と幼馴染がさらりと呟く。まだ地球に存在して3ヶ月しか経っていないことへの衝撃。なぜどうしてが大量に押し寄せてくるめまぐるしい日々なのだから、そりゃ色んなことに興味津々なわけだと納得する。一方で、犬としての3ヶ月にどれほどの重みがあるのか疑問を抱いた。幼馴染母曰く、犬の3ヶ月は人間の5歳児に値するらしい。6ヶ月が過ぎて6歳、1年で12歳と精神年齢は成長するのだそう。
 12月生まれの彼女。次の夏にはもう1歳分の成長を遂げ、次の冬が来るまでに随分と成長するのだとわかると、さっきまでの無邪気さに一抹の寂しさが押し寄せる。まだ出会って数時間なのに。
 それでもまだ、彼女が春を知らないことへの面白さが勝つ。当たり前に過ぎゆく四季の移り変わりに「初めて」があることへの面白さ。いつか追い抜かされるのだから今くらいは胸を張りたい。
 私も12月生まれなの。始まりは雪の日。日がのびてきたでしょ、前よりも暖かいでしょ、風はとんがっていないけれど、吹くと少しひやりとするでしょ。そろそろ世界がピンク色に染まるよ。
 春よお帰りなさい。そして初めまして。知らぬ間に過ぎていた初対面の挨拶を今更ながらお送りします。


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