見出し画像

人と人のコミュニケーションをしたい


「あー、誰か上の人、それか分かる人、出して」
電話を取った私の声を聞いた瞬間、声色も言葉遣いも急変させる電話の向こうにいる男性。用件も言わずにそう吐き捨てる。電話を投げつけたくなるのをこらえながら「私が承ります。どのようなご用件でしょうか」と丁寧に返す。その時の時間帯責任者は紛れもなく私だったのだ。用件を聞いてみれば誰にでも分かるような問い合わせだったけれど、「私が承ります」と言ったとき電話口から聞こえた馬鹿にしたように吐き出された息の汚さは天下一品だった。あー、きたない。

自分が(若い)女であってしまったがために、こんなめに遭うのだ。男だったら良かったのに。女は損だ。そう思わざるをえない出来事がザラにある。

私は今、26歳。女性。社会人四年目。背丈も小さく、こぢんまりとした外見で、戦闘力はとても低いように見える。声も高くて明るめ。仕事の時はより丁寧に聞き取りやすいように明るい声を出す。自覚はある。私には「舐められやすい」要素がたくさんある。そう、自覚はある。

社会に出て驚くことが山ほどあった。相手が若い女というだけで見くびって偉そうな態度をとって力ずくで何でも思い通りになると思っている人がこの世の中にはこんなに沢山いるのだと知った。想像より遥かに多かった。地獄だなと思った。

でも、地獄で息をし続けていると、だんだんそこで呼吸をするのが当たり前になってしまう。

思い出すと悔しくて眠れなくなる日は未だにある。それでも、私はその悔しさや違和感や怒りに何度も出会うたびに、心をプラスチックのようにパリッと無表情にしてやり過ごすことを覚えてしまった。悲しいだとか、怒りだとか、そういうのに慣れなんて必要ないはずなのに。小さいことにもいちいち傷ついて泣いていた頃の方がまだ正常だった。

◇◇

仕事をしていると、生活をしていると、あれ?って思うことはたくさんあって。でも私は、違和感を持っているという意思を示してこなかった。聞きたいことはたくさんあった。でも、無理矢理流して、なかったことにした。たくさん見て見ぬふりをしてきた。

喉がからっからに渇いていた。生ビールが欲しかった。飲み会の場で言われた「どーせお前もカシオレとか飲むんでしょ」、あれってどういう気持ちで発するんだろう。普通に生ビール飲んだけど。とりあえずカシオレに謝れ。

女なんだからもっと愛嬌持て、と言われて悔しくて泣いたこと。元々感情をおもてに出すのが得意ではなくて、愛嬌が無いことを気にしていたから、余計に悲しかった。愛嬌を持て、と言いたいのならそこに「女なんだから」は不要だと思うんだけど、って、当時の私は言えなかった。

「うちの上司が、何故か私より先に同期の男子を先に昇進させようとしてるんです」と言った、仕事の良くできるテキパキした後輩、その子の悔しそうに光った瞳。あ、私の時もそうだった、そう思ったけれど、「私の時もだったよ」なんて言葉をかけるのは同じ悔しさを経験した人間としてあまりに無責任だよなと辛かった。

「仕事ができすぎる女は可愛くないよ」「生意気」「なんでも自分でできるのって守りがいがない」私はそういう言葉に縛られて生きてきた。そう、本当は、頼るのが得意で甘え上手で守りたいと思われるような人になりたかったのだ。学生のころからずっとそういう人になるのが理想だった。自分は真反対の性格だとも分かっていながら、甘え上手で異性に守られる性格になろうとしていた時もあった。馬鹿な私はそうやって生きるのが楽なんじゃないかとさえ思っていたのだ。

電話をとる時にわざと低めの重みのある声を出す、可愛らしい声を持つ先輩のこと。普段の話し声からは想像もつかないほど貫禄のある声で対応をしているのは、「舐められないように」。きっとこの先輩は、私と似たような経験をしてきている。

私には高圧的な態度で無理難題を要求してくるのに、通りかかった男性の同僚が対応したらすんなり何事もなかったかのように知らん顔して逃げていった人。明らかに人を見て態度をかえていると分かる物言い。自分が上ですよ、あなたを馬鹿にしてますよ、という態度をわかりやすく表明してくる人。仕事をしていると、私を「スタッフ」ではなく「若い女性(自分より下)」としか見ていない人が想像以上に多くてこわかった。これに関しては自分の空気感や仕事への自信、経験値の低さも原因ではあると思うけれど。それでも、それならば「未熟なスタッフ」で良いのだ。そこに「(見下してよい存在としての)未熟な女性」とわざわざ性別を持ち出さなくても良いのだ。

「女の子の割には◯◯だね」という褒め言葉で喜んでいた過去の自分の浅はかさ。何故いちど落として上げられないと喜べないのか。基準が低すぎやしないか。「女の子の割には」なんて前置きいらんやろ。男とか女じゃなくて、私を褒めろ。私という人間を褒めてくれ。

絶対に自分の方が成果を出しているのに、まわりの男性ばかり昇進していくシステム。ある程度年齢を重ねた貫禄のある男性がいる、というだけでお客さんが安心する心理、分からないでもないけど、そんなの分かりたくない。それなら死ぬほど働いてきた私たちはどこへ行けば報われるんですか?

自分が女だから、こういう見た目だから、高圧的な物言いをされているんだなと思うことは多くて、全く減る気配はない。更にタチが悪いのは、そういう人と遭遇して横柄な態度をとられたことを男性の上司や同僚に訴えても、ほとんど理解してもらえないところだ。彼らは実際に「女だから舐められた」「女というだけで馬鹿にした態度をとられた」ことがないので、ピンと来ないようなのだ。私ばかりが怒り狂っていて、馬鹿馬鹿しくなる。
だから、そういう「人を見て態度を変える化け物」に出会ったときには、本当に申し訳ないけれどその人のいる会社ごと全部嫌いになってしまう。今のところそれくらいしかなす術がない。実際私は私生活でぜっっっったいに使うもんか!!!というエージェントがいくつかある。取引先にあんな態度をとる人がいるということは、きっとお客さんにもそういう部分を出していると思うからだ。その人、知らないうちに顧客を減らしていますよ。そんな人雇い続けて大丈夫?(性格わるい)


◇◇


仕事のことあまり書くのもどうかなと思ったからだいぶぼかして書いたけれど、本当に本当に男に生まれたかったと何度思ってきただろう。同じことをしてもなぜか認められにくい、女はすぐ折れてくれると思われている、上には必ず男の上司がいるという謎の偏見を持たれている、タメ口をきかれる、馬鹿にした口調で笑われる、どうして私は女なの?女って損じゃない?


と、ここまで書いておきながら、私は正直、よく分からない。実際「女の子は得だよ」という声も聞こえてくるけれど、自分の中には「女は損だと思う」という気持ちも強くある。そもそも損得の問題ではないのかもしれない。
それに今こんなに「働いてると女は損だと思う」と言い続けている私も、学生の時には「若さ」や「女子大生であること」を武器にしてまわりに甘えていたこともある。私自身が都合が良い人間なだけなのかもしれない。私が訴えても、職場の人はあまり共感してくれなかった。そうだねえと生温い返事だけで流れてしまったり、気にしすぎだよと言われたりした。こんなに共感されないということは、やっぱり私の気にしすぎなのかな。そう自信をなくすこともしばしばある。

わからない。


私の違和感や苦しさや悔しさは、偽物だろうか。それとも、本物だろうか。私の気にしすぎなのか、皆思っていても仕方ないと諦めているのだろうか。私はただ、人と人のコミュニケーションがしたいだけなのに。そこに男とか女とかそういうのが入るのが嫌なのだ。お願い、私をひとりの人間として見て欲しい。


🍵🍵


前回のnoteで、ふらにーさんが言っていた。私たちには安心して話せる場所が必要だって。うん、その通りだと思う。だから敢えてこの交換日記の場で、いま思いついた限りの違和感と悔しさをつらねてみた。もっと踏み込んだ話、具体的なエピソードを出すと何だか泣いちゃいそうだから、この辺で終わりにします。

こういうのって、まわりに愚痴を言ってみてもなかなか共感されにくいから、ここに書くことができて少しだけスッキリ。前回に引き続き、ぐつぐつに煮えたぎったお茶ですが、怒るべきところでは怒りたい。悔しがるところでは悔しがりたいし、違和感はできるだけスルーしたくない。たたかうぞ。お茶は戦闘力は低そうな外見ですが、意外とパワータイプで武闘派なのだ。


ふらにーさんへ。勢い余ってふらにーさんの投稿の翌日にメラメラと書いてしまいましたが、いつも通りお互いのペースで交換日記しましょうね🍵



ゆっくりしていってね