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さいきん、雨がなかなか降らないなって少し心配していたから、外から雨の音が聞こえてきて少し嬉しくなった イヤホンを外して窓をあけて、雨の音をききながらベランダのアスファルトの色がかわっていくのを眺めた ほんとうに雨は、文字通りぽつ、ぽつ、と降る ぽつぽつ降る雨は優しくて好きだ 悲しくも寂しくもないけれど、無言の慰めが必要な夜は必ずある

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イヤホンは左耳だけつけることが多くて、きっと両耳つけているときも、無意識に左耳ばかりで聞いているのだろうと思う 幸せと不幸がプラスマイナスゼロになった時、人生が終わるって誰が言っていたんだっけ 右耳に与えられなかった機会のことを思う 与えられる機会の不平等について敏感になってしまっている 主役ばかりを与えられる世界と、主役という存在すら知らずに生きる世界 ミラー、ミラー、フーイズザモストビューティフルレディ、インザランド?

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何かに心を預けたくなるのは別に悪いことではないと思う、預けたことを忘れさえしなければ、ちゃんと戻ってくることができれば 皆おなじ表情で名前を書いて、きっともう戻ってこないんだろうな 人を助けることは自分も助かることだと思っていたけれど、違うの?
そういえば預けたお金、帰ってきた?心は?いつか戻ってくる?何時何分何秒、地球が何回まわったら?

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私は何年も変わっていないと実感するのはスタバだったりする 季節限定のフラペチーノををチラ見しつつ、毎回同じムースフォームラテを頼んでしまうのは好きだから、心地よいから、「同じ」って安心で楽でとても良いから

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ずっと未読のままのライン 送ったことすら忘れかけていて、履歴を目の端でとらえてたまに落胆する 大人になって、じわじわと人との縁が途切れていく感覚は知っていたけれど、こんなふうに突然ぷつんと無くなってしまうとやっぱり少しだけきつい こんなふうに「この先一生会わない人」が増えていくんだ 出会った数だけ別れるんだ 合理的だ なのに納得できない

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真っ直ぐに愛を受けて育った人特有のかわいさ 愛を知っている人は愛に敏感だから アイラインを引く度に、キツくなるからやめればよかったと後悔する 指先のささくれが自分をよく表しているみたいだ 愛に溢れた人が身近に多くて気後れする ねえ、すきだよ いつもありがとう

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作品を作るということについて一日考えていた もう何に対してもひたむきになることができない 諦めなのか開き直りなのか、私という人間には俯瞰しかない どこにも行かないでという人ほど突然どっか行っちゃうんだよ どこにも行かないで欲しかった気持ちを知っていたこともあるけど 好きという感情に狂わされていたこともあるけど 大人になって、こころの表面を上手にすべることができるようになって、自分の中の善悪の判断だけで関係を作るようになって、感情に問うことをしなくなった

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言いたいことも感じていることもひとつも言葉にできなくて、言葉以外で伝える方法も考えてみたけれど何の才能もなくて、努力すらできなくて、ひとつの物事に打ち込めなくて、どうやったら伝わるんだろうな 心の中身をそのまま渡すことができたらいいのに 目に映ったもの全て共有できたらいいのに もどかしいばかりで朝と昼と夜を繰り返して、こんなふうに形にもなっていない言葉の破片ばかりが散らばってしまう

生きるのは簡単だけど、感情を交わしながら誰かと生きるのは骨が折れる

それでも私はいまの私が人生でいちばん好きで、過去に戻りたいとも自分以外がよかったとも思っていない 過去の数々の選択を間違えたとも思っていない 選んだ方を正解にするよ

どこから見ても月は月
でもこんなふうに見えている月はこれだけ
同じ場所から見ていても違うんだもん
完全に分かり合えないから「解釈」が生まれたのかなと最近は思う

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三年前、書かなくなることは不可能だと思っていた
今、書かなくなることは容易だと感じる
激動でも穏やかでも同じひとりの他人の人生で
ただそれだけで
いつまでも変わらないことと、変わり続けること、そのどちらも持っている人になりたい

いつかふんわり消えたいね 可愛く消えたいね そんな願望はずっとある




ゆっくりしていってね