見出し画像

自転車四国一周④讃岐うどんとリタイアの誘惑

自転車屋さんと遭遇しないまま腹が減ってきたので、ひとまずうどんだ。
店構えが気になった「多田製麺」へ。入ってみると地元の方々がわんさかいた。
当たりかもしれない。

ぶっかけ大300円。
数年ぶりに本場のさぬきうどんを食べたが、やはり東京で食べるものとは別物だ。コシがあるのに、ツルツルっと食べやすい。いくらでも食べられそうだ。なんでだろう。ものすごい普通のおじさん、おばさんが作っているように見えるのだが。

安くて、早くて、うまい。
いいとこばかりだが、つい2玉、3玉、はしごだと食べ過ぎると簡単に2、3キロ太ってしまうのが、唯一の難点だ。

あーまた食べたくなってきた。

うどんでエネルギー補給して、ふたたび走り始める。
さぬき市といっても、うどん屋は少ない。聞けば、うどん屋は高松から西側に多いそうだ。

ポツンとたたずむ弘法大師さまが、至るところで見守っている。
自転車だからなんとか走れるが、この旅路を徒歩で行くお遍路は本当にすごい。とはいえ、この暑さでは、さすがに歩いている人は見かけない。

本日の目的地の東かがわ市に入る。
自転車屋さんを探しながら走った結果、香川県の内陸寄りを横断するような感じになってしまった。とはいえ、海はすぐそこだ。

宿泊は、とらまる公園。
こんな猛暑では、誰もテント泊などしないようで貸切。芝はきれいに刈られているし、水回りも清潔で、季節がよければ素晴らしいだろう。

さて、問題の折れてしまったシフトレバー。
結局、めぼしい自転車屋さんに巡り合わずに、ここまできてしまった。100キロ。走り出しや登りはかなりパワーを使った。右足のふくらはぎがピクピクしている。こんな状態では、とても900キロを走り切れるとは思えない。

調べると、近くに出張修理をやっている自転車屋さんがあった。電話をすると、メーカーなど詳細を聞かないうちに
「スペアもあるのでなんとかなると思いますよ」と頼もしいお言葉。

しかし、そう甘くはなかった。
意気揚々と軽トラでやってきてくださったのだが、
自転車を見るなり、「あーこんなん、初めて見たわ・・・」と一気に弱気に。

せめて、もう少し軽いギアで固定できないかと、2人で汗だくになってやってみたが、無理だった。

「こりゃ、もっと大きい自転車さんに相談した方がいいね」
と香川にある全国チェーンの自転車屋さんを教えてくれたのだが、
「SRAMですか・・・うちではどこも在庫がないですね」
とやはり難しい。

カスタムをやるような自転車屋さんにも連絡してみると、
「香川で探すより、ひょっとしたら徳島の方がいいかもしれませんよ。実は、サイクル王国なんですよ、徳島って。高校生ぐらいから、みんなクロスバイク乗ってますし。東かがわならすぐ近くですよ」

調べると、確かにカスタムやレース用を扱っている店がポンポン出てきた。

けれど、どこに連絡しても、
「SRAMですか・・・シマノならなんとかなるかもしれませんが、SRAMだと1週間はないと難しいですね。。。」

アメリカのSRAMは、日本のシマノ、イタリアのカンパニョーロと並ぶ3大メーカーだが、常時在庫を抱えているところは東京でも少ないよう。サードパーティの部品にしても、SRAM用じゃないと適応が難しいらしく、結局、諦めるしかなかった。

ずっと付き合ってくれた出張修理屋さんは、

「やめといた方がええかもしれんね。この先、まだまだ長いし。七子峠(高知)とかもいくんやろ。きついで。山の方でなんかあったら、えらいことやし。やめた方がええかもしれんよ」と、リタイアを勧めてきた。

そう言われると途端に不安になる。確かに一人旅だし、峠から転げ落ちて、連絡できない状況に陥ったら大変だ。

「そうですね。ただまだ2日目なので、ここでやめるのも、ちょっと諦めきれなくて。なので、無理はせずに、行けるところまで行ってみます」

と決意表明をした。

ただ、この暑さ。。。正直、心の奥底で、リタイアのいい口実ができたという思いがないではなかった。それほど暑さは体にこたえていた。

「びっくりするくらいボロボロでしょ」と番台のおかあさんと6歳の看板犬が笑う町唯一の銭湯。テント泊にはうれしい湯船だった。
おかあさんが気さくな方で、涼んでいる間、いろいろお話しした。
自転車旅だとわかると、「これ、どうぞ」と「同行二人(どうぎょうににん)」の革製のキーフォルダーをくださった。手作りという。

同行二人とは、多く四国巡礼者がいつも弘法大師といっしょにあるという意味だそう。一人旅には心強い。

夜もうどんを食べたかったが、夕方にはどこも閉まっている。
ネパール人がつくるスープカレーという謎のコンボが気になって入った店が結構おいしかった。

日が沈んでもなかなか気温が下がらず、寝苦しい。
昼間は気づかなかったが、石像が妙に不気味だし、相変わらず体も火照っているし、シフトレバーは直らないし、今夜はうなされそうだ。

不安を抱えながらテントからはい出て、気温が下がるのをぼーっと待つ。
東京では決して見ることのできない夜空の星たちがきれいだった。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?