スクリーンショット_2018-11-03_9

自分にしかできない仕事なんて、たぶんない。 でも、親孝行は子供にしかできない。

 内戦下のシリアで拘束されていたフリージャーナリストの安田純平さんが3年4ヶ月ぶりに解放された。
 斬首された後藤健二さんの画像はあまりにもおぞましかった。安田さんは無事でよかった。本当によかった。しかし3年4ヶ月とは。。。年少さんが小学生になってる年月だ。あまりに長すぎる。

画像1

 昨日の記者会見では、さすがにいつもの不遜さは影を潜め、特に冒頭はかなりキョドッているように見えた。そもそも解放されて1週間足らずで、まともな精神状態なわけがない。それでも終盤は本来のペースを戻しつつあって「この人本当にすげーな」だ。

 拘束中の話はもっとすごい。

 動いちゃダメ、音出しちゃダメ、日本人と言っちゃだめ、缶詰もらえるけど缶切りないとか、あまりに地味すぎる攻撃。多くの人はリンチとかされてたんじゃないかと思っていただろうから、「え、トイレの時にケツ蹴られただけなの」と拍子抜けしたかもしれない。女性は性奴隷なのに、安田さんはカタチ鬼かよとか。

 ただ、そんなのはちょっとした印象やエピソードなだけで、「地獄」だったろう。なにせ3年4ヶ月。40ヶ月だ。解放されると言われては反故にされる日々は絶望の連続だったろうし、そもそもいつ相手の気が変わって殺されるかもわからない。「無期懲役、気が変わったら即死刑!」みたいな状態なのだ。まともなら気が狂う。

 そんな中、安田さんは相手のあまりの理不尽な対応に

「そんなのハラール(イスラム法において非合法・禁忌と判断されるもの。あるいはそのような行為)だ。やめろ。お前らは慈悲深いはずだろ。だからやめてくれ」みたいなことを言ったりして、待遇改善を求めたりしていたという。

 どうやってそんな正気を保っていたのだろうか。少林寺拳法2段だからか。戦場ジャーナリストのメンタルって、みんなこんなレベルなのだろうか。すごい。すごすぎる。

 しかしながら、拘束の瞬間は、別の意味で驚いた。

ガイドから「準備ができた」と連絡を受け、トルコを出発。国境付近でガイドとは別の2人組と合流して徒歩で越境した後、別の人物に拘束されたという。安田さんは「すでに話はついているような様子だったので、何かおかしいなと思ったものの、まあそういうものだろうと思って入国してしまった」と振り返った。

 まじか。何百人とジャーナリストが拘束され、何十人も殺されている地で、こんな不用意なことするだろうか。素人の私でもさすがに「そりゃまずくないか」と思う。内戦下でガイドではない別の男たちについていったら、奥田英朗でなくとも「純平、考え直せ」とツッコむ脇の甘さだ。

ガイドがいない間に別の方向に入ってしまったので、完全に自分の凡ミスだ。

 本人も認めているが、魔が差したでは済まない。観光地じゃないんだから。ジャーナリストとしてのスキルを非難されても仕方がないと思う。とはいえ、それもこれも「生きてこそ」だ。生きていれば、この経験を共有でき、検証でき、次に活かせるってもんだ。

安田さんは「紛争地に行く以上は自己責任。自分自身に起こることは自業自得だと思っている」と話した。そのうえで、日本政府の対応について「本人がどういう人であるのかで行政の対応が変わると、民主主義社会にとって重大なことだと思います」

 本当にその通りだと思う。
「日本政府に文句を言っている安田なんて助けなくていい」と思っている人がいるようだが、そういうのには「愛されずに育ったんだな」と思うようにしている。そう、この国には愛が足りない。
 文句をいう人を助けなくていいなんてなったら、そんなのただの独裁国家だ。言論の自由はおろか、民主主義でもなんでもない。その息苦しさ、理不尽さがシリアのような内戦を生み出しているというのに。

 安田さんは今後どうするのだろう。

活動は自分で判断しているが、両親もかなりの年齢で、拘束されている間もそのことはずっと気にかけていた。親孝行もしないといけないと考えており、今後の取材の仕方をもうちょっと慎重に考えることはあるかもしれない。

 私でさえ海外に行くたび「親より先に死んじゃダメだよ」と言われる。安田さんのご両親が健康なのか、いくつなのか知らないが、少し休んで親孝行したらいいと思う。世界中の温泉でも連れていけばいい。その間に「私はウマル」って拘束された3年の本でも書けばいいさ。

 親の介護をしてると仕事量は格段に減る。海外なんて親が死ぬか、施設に入るまでもう行けないだろう。そんな中、働き盛りの同世代たちが輝かしい実績をあげたり、リア充な投稿をUPしたりしていると、「あーもう完全に俺、周回遅れだな」とか思ったりする。

 人は自分にしかできない仕事があると思うのかもしれない。そう思いたいものだ。戦場ジャーナリストとかなら、なおさら思うのかな。でも、ひと一人ができることなんて高が知れている。自分がいなくても誰かがカバーしてくれるのが社会ってもんだ。じゃなきゃ回らない。

 自分にしかできない仕事なんて、たぶんない。

 でも、親孝行は子供にしかできない。

画像2


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?