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自転車四国一周②新居浜の夕日

心なしか海のにおいがただよってきた。
今治に入ったようだ。

すぐに海が見えたが、漁師町というよりは、貿易工場が目立つ。

あと、鬼瓦がわんさか。

どうやらこのあたりは菊間瓦という数百年の歴史をもつ伝統工芸品が盛んらしい。その流れで鬼瓦もたくさんつくっているようだ。

人よりも大きな鬼瓦もある。こんなに巨大な鬼瓦を見るなんて、はじめて。
なのに、写真の一枚も撮っていない。
あまりの暑さに、ペダルを漕ぐ以外の動きをする心の余裕を失いかけていた。

高校球児のような玉のような汗が吹き出し、スタートから3時間、45キロほどで、すでに5リットル近く水分を摂取していた。

「しまなみ海道をチラッと」などという欲は燃え尽き、早すぎる梅雨明けを恨み、容赦ない太陽をただただ恨みながら、走り続けていた。

目の前に美しい海が広がっていなければ、初日でギブアップしていたかもしれない。

瀬戸内の海がこれほど透明だとは思わなかった。
そしておだやか!
ささくれ立ちそうな心をしずめてくれる。

店構えが気になったので、遅いランチに入った。

元プロレスラーみたいな坊主、ヒゲ、巨体の店主がカウンターに座って電話中。
ランチ終了ギリギリっぽい時間だったから、「もう終わりだよ!」と追い返されるかと思ったが、「あ、どうぞどうぞ」とめちゃめちゃ低姿勢で迎えてくれた。

メニューを見ると「店主がすぐテンパるので有名!! それを見て食う飯屋!」のキャッチコピー!

強面だが、めちゃくちゃいい人で、「充電させていただいても・・・」とお願いすると、「どうぞどうぞ」と巨体そのまま心も広い。

焦げついた心と体が少し癒された。

唐揚げとどて焼きのハーフ定食に、食べ放題のご飯と味噌汁をお分かりして、エネルギー補給。

気合をいれて、再び走り出す!

が、やはり暑い。

クーラーの効いた道の駅に入ったら、動けなくなり、30分ほど休憩。
もはや「しまなみ海道」の文字に後ろ髪引かれることすらない。ただただ今日の宿泊地の四国中央市に早く着きたい。

新居浜に入ったあたりから、香川県の観音寺のサインが出てきた。
あとどれくらいだろうか。

新居浜の町はほどよく大きい。が、見かけるのは車ばかりで、人っ子一人いない。暑すぎて、誰も外に出ないのだろう。

夕方になり、ようやく少し暑さがやわらいできた。
四国中央市まであと少しだ。

本当は暗くなる前に宿に着きたかったが、あまりの暑さとここまでの80キロ分の疲労で心がほとんど折れていて、誰かの優しさにふれたくてしかたがなかった。

新居浜出身の友人に「ぜひ寄って!」と言われていた「みんなのコーヒー」に立ち寄る。

目の前には瀬戸内の海が広がり、店内もおしゃれ。さすが人気店。
クーラーも効いていて、「あー」と椅子に座ったら、しばらく動けなくなった。

そんな私を、友人の友人とわかった店主のIさんがやさしく迎えれくれた。

コーヒー一杯で長時間休ませてくださり、私のくだらない話にも付き合ってくださった。

体力が回復したので、隣にある古民家を改造したブックカフェの「読×舎(ヨミカケシャ)」にも誘ってくださり、こちらもハイセンスで居心地がよかった。

瀬戸内海に沈みゆく美しい夕日を見ながら、もうこのまま新居浜で寝たいと心が揺れ始めたので、「そろそろ」とたつことにした。

Iさんがいなかったら、燃え死んでいたかもしれない。
新居浜、大好きです。
ありがとうございました。

1秒でも早く宿に行きたかったので、最短距離の峠を越え、カジノで有名な大王製紙の工場沿いを爆走して、四国中央市の宿に着いたのは夜の8時半。

川之江駅前の小さなアーケードにポツポツとお店もあったが、お昼のダルマで食べすぎたので、お腹が空かない。

洗濯をして、シャワーを浴び、早々にベッドにもぐりこむ。

初日は110キロくらい。距離的には問題ないが、この暑さは体力を想像以上に削りとっていく。

明日は早朝に出発しよう。


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