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「みんなで考える10年後の高井神」開催報告

 NPOでイベントを開催しました。テーマは「限界離島」。このまま若い世帯の移住者が無ければ近い将来、人口がゼロになると見込まれる離島について、です。ぼくが暮らす上島町では、高井神島が「限界離島」に該当します。

高井神島についての紹介記事は、こちら。
https://note.com/michishio/n/n5156a2ff8959

 ぼくは本年度、すなわち令和4年度、NPO対象の助成金を契機として、高井神島との関わりを深めてきました。余談ですが、「NPOで助成金を受ける」というアクションは、①企画・計画をつくる、②第三者(専門家と行政職員)の査定を受ける、③(「GO」が出れば)期限内に計画を実行する、④成果を報告する、という4つの過程が1年間のスパンでセットになっており、原則として、途中でやめたり延期したりができません。年度単位で成果を積み上げていくには、ありがたい制度であると感じています。

 専門家の意見を聞きたい(ぼく自身、学びたい)、できれば専門家と一緒に関わっていきたい(ぼくだけでは、荷が重すぎる)という理由から、このNPOの助成金では、すでに高井神島に関わっている人と、過疎や限界集落の専門家が協働して「高井神島の未来を考える」というテーマを設定しました。専門家として参加していただいたのは、島根大学の作野広和教授と愛媛大学の渡邉敬逸准教授のお二人。これまでに高井神島と魚島を訪れていただいて、このプログラムの締めとして、ワークショップ「みんなで考える10年後の高井神」を1月29日(日)に開催しました。

ワークショップ「みんなで考える10年後の高井神」についての事前の紹介記事は、こちら。
https://note.com/michishio/n/n184737abeadc

 企画当初では、高井神公民館での開催を予定していました。ですが今シーズンは、寒波が強く、日本海側では豪雪となり、作野先生が大雪のため来れなくなって、オンラインでのご登壇となりました。そして、通信環境を確保するため、役場・魚島支所での開催となりました。また、ぼく自身、議論の「落としどころ」のイメージが付いていなかったこともあって、「助っ人」として、一般社団法人えひめ暮らしネットワーク副代表の鍋島悠弥氏にファシリテーターとしてご参加いただきました。専門家お二人にファシリテーター、最強の布陣です。

 ワークショップの流れを、ぼくなりにまとめておきます。これからその録音をテキスト化して編集し、報告書にします。すると報告書では、まったく違う流れになっているかもしれません。ですが、ぼくがノートにメモした主観的な議論の行方は、次のようなものでした。

 まず前提として、人口減少地域が採り得る施策としては、移住者や関係人口を増やしてコミュニティを維持しようとする「攻め」の施策と、いま住んでいる住民の生活クオリティを維持しようとする「守り」の施策があり、高井神島で行われている「マンガの島」として観光客や移住者を誘致しようとする動きは「攻め」の施策に分類されるという解説がありました。限界集落をテーマにした発話では、「攻め」の施策をしたところでコミュニティの復活は難しく、むしろ現実的にいま住んでいる人たちの暮らしをどのようにして効率よく維持するか、という現実的、そして「行政工学」的な「守り」の議論の方が主流になっているようです。

 また、「コミュニティを維持していこう」とするアクションとして、従来は、都市部からの移住者であれ、コミュニティの縁者や出身者の「Iターン/Uターン」であれ、定住しないとコミュニティは維持できないと考えられていましたが、最近では、定住以外にも「関係人口」をはじめとする多様な関わり方がコミュニティの維持に有効であると考えられるようになってきている、とのこと。

 「『関係人口』でコミュニティは維持できるのか」という疑問を、ぼくはずっと抱いていました。ここで、関係人口の形成によって「『コミュニティは存続している』という認識が、特にコミュニティの外部で広く共有される」ことにより、実質的にコミュニティは存続しているとみなし得る(みなされる可能性が高まる)、との指摘がありました。確かに、「コミュニティが存続しているか、すでに無くなっているかは、認識の問題である」と言ってしまうことも、可能なのかな、と聞いていて気づかされました。ただ、「コミュニティが存続している」との認識が共有されるだけでは不十分で、「コミュニティについての意思決定に関わる『主体意識』の醸成が重要である」との指摘もありました。確かに。「決定する」など、何らかのアクションがコミュニティに積みあがっていかないと、その「実体」は形成されません。

 中山間地ではない、離島に特有の状況として、「コミュニティとしての島」の機能を維持するためには、例えば、灯台や灯台までの道の整備、定期便の寄港地として位置づけ、船の寄港時に港湾側で船を迎える人の確保などが必要になってくる、という指摘もありました。関係人口の共有認識と意思決定で形成されたコミュニティであっても、島の場合には中山間地の集落とは違って、「現役の島」としての機能を維持することが必要、というわけですね。

 また、過疎化の研究でよく提示されるという「過疎化によってコミュニティ/集落としての機能が衰退していくプロセス」に現状の高井神を位置づけてみると、「高井神ではコミュニティとしてのコンセンサス/合意形成に裏付けられた意思決定をできない段階に、すでにあるのではないか」という問題提起がなされました。そのうえで、「『決めることをサポートしていく』という関わり方が必要になっているのではないか」という提案があり、それを受けて、「『住民、あるいは関係者による自治』ということが基底にはありつつも、『コミュニティとしての決定』をどのようにしてサポートしていくか、これから考えていく必要がある」という、今後の課題が浮かび上がってきました。そしてそのために、作野教授より、「コミュニティの代表性を担保した『コンソーシアム』のような意思決定機関を設置してはどうか」という提案がなされました。

 ぼくたちは本年度、NPOとして高井神島で空き家を整備しました。この空き家を、「地域交流拠点」として活用する予定です。ですがまだ、具体的にどのように運用していくのか、決まっていません。今回のワークショップで、「『高井神のコミュニティとしての意思決定』をどのようにサポートしていくのか」が焦点であるということが、明確になりました。高井神島との関わりも、ようやくスタート地点。いま立っている地点がどういった場所なのか、このワークショップで明確になったと思っています。令和5年度以降も、高井神島とどのように関わっていくべきなのか、具体的に何ができるのか、さらに議論を重ねていきたいと考えています。

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