ちょいちょい書くかもしれない日記(ホラー映画)
いつの間にやら、こんなにスキを頂戴していました! 本当にありがとうございます。
色んな人に助けてもらっている、その色んな人の中には、この日記を読んでくださっている方々も勿論含まれています。
(前文終わり)
突然歩き出した母のこれからを話し合うため、病院の理学療法士、施設の理学療法士、施設のケアマネ、主治医、そして家族である私が、朝から施設に集合した。
施設に行ったら、「まずは……」と、ケアマネさんが、先日、母が通路をスタスタ歩いたときの動画を皆に見せた。
驚きの声が一同から上がる。
ホラー映画で建物の中を歩き回る幽霊みたいな女が映っていた。
母である。
よくその曲がりきった足首で、と感嘆するほどしっかりした足取りでスタスタ歩き、ちゃんと手すりに手を掛けて方向転換までした。
思わず「おおー」と手を叩く主治医と私。医者のリアクション、お揃いになりがち。
ただ、ちょっとつまずくと頭から、というか顔からバーンと倒れ込む転び方をするので、やはりかなり注意しなくてはいけない感じだ。
施設がさっそく歩行器を用意してくれたのだが、初めてなので怖いのか、母はとんでもないへっぴり腰に。むしろ危ない。
病院のリハビリで、歩行器を練習することになった。
もし歩行器が使えるようになったら、今レンタルしている車いすをいったん返却し、できるだけ自分の足で歩けるレイアウトに部屋を再び模様替えすることに。
そうでなければ、別の補助具について、レンタル業者にコンサルトしてみることになった。
人工関節を入れたことで、母が少しでも歩きやすくなったのなら、それはよいことだ。
動き始めたせいか、お通じのコントロールも改善したらしい。よきよき。
あとで母と二人で話すとき、ケアマネさんが「せっかくだから」とマグにお茶と、それから私が母用に預けている小さなクッキーとをお皿にのっけて持ってきてくれた。
ぬるくした、でも十分にあったかいお茶を用意してくださるところに、愛情を感じる。
母は自分の分をぺろりと食べて、私にも「食べなさい」と勧め、しかし私がひとつ食べている間に、お皿に残ったもうひとつをジッと見つめていた。
「食べる?」と躊躇いなく「包みを開けてちょうだい」とのこと。
その言い方、祖母にそっくりだなあ。さすが親子。
手に力がないので、パッケージを開けるのが面倒臭いらしい。
でも今日は、手の震えがマシだった。
表情も、けっこう出ている。
弟が言うように、症状にかなり波があるのだなあ。
ケアマネさんに「お菓子3つ食べました」とあとで報告すると、「お腹すかれるみたいなんですよね。無限に差し上げるわけにはいかないんですが、小さいお菓子を預けてくださってるので助かります。ひとつで気が紛れるから」と笑っていた。
きっと、おやつの催促がけっこう激しいんだろうな……。
母がしきりに「のど飴がほしいわ」と言うので、舐め終わるまできちんと見守ること、そしてもし喉に詰まったら私が責任を負うことを心に決めて、一粒だけあげた。
特に嚥下機能には問題がないので、「飴は久し振りでおいしい!」と喜んで舐めていた。
そういえば、飴、大好きだったもんなあ……。
あとでこれもケアマネさんに「勝手にあげました」と謝ったら、「そうやって目を離さず見ていてくださるのなら、今のところは大丈夫ですよ。私たち、ずっと観察しているわけにいかないので差し上げられないんです」と仰っていた。
なるほど。
次のときには、榮太樓總本鋪の液体状の飴と板状のミルクケーキみたいな飴を持参することにしよう。あれなら、預けるおやつとしても使えるだろう。
母と噛み合わない会話をしていると、ほんの一瞬、昔を思わせる空気が流れることがあって、それが嬉しいのか寂しいのか悲しいのかもうわからない感じで泣きそうになる。
今日はそれ以外にも、少し仕事に余裕があったケアマネさんと、家にいた頃の母の話をすることができてよかった。
母のこだわりの強さや、他人の介入に警戒心が強いところ、いつもきちんとしていたいところ、人を気づかいたがるところなど、今、強めに出ている性質がもとからのものであるとわかると、理解が深まります、と言われた。
そういうもとからの気質は、どんなに認知症が進んでも残りがちなものだから、と。
帰り際、食事の介助が必要な方に、職員さんが詰め所近くの共有スペースでお昼を食べさせていた。
「食堂には行きたくないって言いはるんですけどね、ずっとお部屋っちゅうのもアレなんで、気分を変えてここで食べよか~って。日当たりもええしね」と職員さんがニコニコしていた。
いい施設だよなあ、と思う。
規模が小さいので、そんなにあれもこれもはないけれど、ひとりひとりをきめ細かく見てくれている感じがする。
帰宅したら、父の公認会計士さんからメールが来ていた。
「いつも楽しくないことも楽しい文章で報告してくださってありがとう。光景が目に浮かんで笑顔になります」と書いてあった。
えっとまあ一応、作家なんで……いやそんな楽しいメールを書いた覚えはないのだが。
やること多すぎてアホの子には手に余ります! 助けて! ってことを書いた記憶しかないのだが。
ドSか! 私はなんも楽しくないぞ。
でも、大変な思いをして、多忙なお仕事の合間にバリバリ助けてくださったので、私のボスケテメールが娯楽になっているなら何よりではある。