人生初めて実の父親に会った話。31年の歳月を埋めた平成が終わる2日前。
優しい人でよかった。そして会えてよかった。これが今の僕の正直な感想だ。
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2019年4月29日。この平成が終わろうとする2日前。31年の時を経て人生で初めて実の父親に会った。母を交えて3人で。この日をたぶん一生忘れることはないだろうし、今のこの気持をちゃんと文字にしていこうと思う。
生まれてから実の父と一緒に過ごしたことがない。文字どおり1秒も無い。それはどんな感覚なの?なんて聞かれるけれど、生まれてからずっといなかったので何か悲しいとか不安だったという感情はなく、僕にとってはいないことが当たり前だった。もちろん何かの思い出や懐かしい話などは一切ないから、血は繋がっているのだろうけれども、ほぼ他人のような感覚に近い。
もしもこれが小説ならば、父、母、僕の3人の視点からどんな思いで再会を迎えたのかを書いていく構成が楽しそうだけれども、そんなことはできないので僕の視点から当日までの心境を書いていく。
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31年間という歳月はたぶんけっこう長い。僕は1987年に生まれた。俵万智のサラダ記念日が発売された時なので、もうずいぶんと前になる。高校までは祖父母と母の4人家族。そして、とくに実の父に会いたいと思ったことはなかった。そういうものだ。
高校2年。多感なこのタイミングで新しく父と兄ができる。そして、社会人になり20代の中頃、初めて親族がなくなった。ずっと一緒に暮らしていた祖父だ。もちろん人はいつか亡くなるのだけれども、僕はかなりショックを受けた。そして、この頃から実の父にもいつか会ってみたいと思うようになる。向こうがちゃんと生きてるいる間に。
祖父が亡くなる少し前、実の父と僕が会うように調整をしてくれていたらしい。ただ、祖父が他界してしまったのでそれも流れてしまった。そして、僕は30になった頃にそろそろかな、なんて思っていたのだけどそれも流れ、まあいつか機会があったらなんて思っていた矢先、1ヶ月くらい前に母から打診された。
「そろそろ実の父と会ってみますか?」
僕はしばらく考えて、数日後に「お願いします」とだけLINEした。
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ただ、いざ会うことが決まるとそわそわする日が続いた。まず、なんて話そう。なんの会話をしよう、と。緊張のようなもやもやとした得体の知れない感情が僕を包む。期待と不安が半分ずつが入り混じったような混沌とした気持ち。僕もこんな感じでそわそわしていたのだけども、父も母もたぶんそわそわしていたはずだ。だってみんな31年ぶりの再会なのだ。
そして、あっという間に当日を迎える。
僕は母と先に待ち合わせをした。いつも母と待ち合わせをするときは遅れてしまうのだけれども、この日ばかりはちゃんと時間通りに行った。母はなんだかいつも通りの顔をしていた。
「最近、ipadを買おうかなって思っていてさ」
なんて母が話しかけてきた。
今このタイミングでipadの話をする?と思いながら、
「ipad airが6万くらいでお手頃なんだよね」
なんて僕は、適当に返した。ほんとうに適当に。
父との対面の少し前、銀座のapple storeの店内で父に関してたくさんの質問をした。他のお客さんは純粋にapple製品の話を聞いている中で。
そして、気づけば待ち合わせの時間になっていた。
「時間だね」
31年の時を経た初対面まであと少し。喉がほんとうに乾いていた。
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待ち合わせ場所は、少し離れた所にあるお店だった。
ああ、どんな人なんだろうと思いながら歩く。似ているのか。ぱっと見て直ぐに分かるのか。そして、向こうも僕のことを分かるのか。なんて会話をしようか。時刻は11:30。
お店の前に、1人の男性が立っていた。ただ、すっと静かに立っていた。
「こんにちは、おひさしぶりです」
母とその男性はぎこちなく挨拶をした。
僕は名前を告げる。男性はじっと僕を見つめた。
「こんにちは」
目元と鼻のあたりがよく似ていた。
そして、僕らは3人でお店に入った。とても不思議な感覚に包まれながら。
ランチでお店に入ったのだが、店員さんが注文をとるまでたぶん30分近く待ってもらったような気がする。傍から見たら、父、母、息子の集まりなのだが、たぶん異様な空気だったと思う。
「ご迷惑をおかけしました」
最初はやや重たい空気が流れる。
3人で白ワインをグラスで頼んで、僕らは31年の時を振り返り始めた。長い、長い年月だ。これから31年というと僕は還暦を迎えるわけだが想像もできない。この時、父と母はどんな気持ちで話していたのだろうか。懐かしいという気持ちなのかなんなのか。
父は優しそうな人だった。話をしている時、つねに穏やかな表情を見せてくれた。それだけで僕は嬉しかった。いい人の元に生まれてきただけでよかったじゃないか。そして、話をしているうちにああなんだか似ているなあと感じる時間が流れる。これが遺伝子の力なのか。人間の神秘さすら感じた。一緒に暮らしてなくても、仕草や趣味、作家の好みは似るらしい。
繋がりを感じること自体に嬉しさが宿る。人間は自分と似た人と出会えるとそれだけで嬉しいらしい。
僕らはたくさんの質問をした。同じ空白の時間を振り返った。父も母もよく笑っていた。そして、なんどか目頭が熱くなった。
31年間の空白の時を埋めるかのように3時間近くがあっという間に過ぎさる。そして、お別れの時になった。
「今日はありがとうございました」
そう言ってお店を後にした。先に父が歩き出したので、後ろ姿が見えなくなるまで、ずっと目で追った。父は一度もこちらを振り返らずに人混みの中にふっと消えていった。
これからまた会うことがあるかは分からない。最初で最後の出会いで、ご飯だったのかもしれない。でもそれでいいのだと思う。僕は繋がりを感じられたことだけで満足なのだ。
最後に。
ここまで育ててくれた母に最大の感謝を添えて。自由に生きすぎる息子で大変だったように思う。これからは、名に恥じないように親孝行をしていきたい。
今までほんとうにありがとう。
倫孝より
終わり
ありがとうございます!また新しい旅に出て、新しく感じたことや学びを言葉にできればと思います!あるいは美味しいお酒を買わせて頂きます。そして、楽しい日常をみなさんにお届けできれば。