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伝えるということ 〜中3男子の意見文〜

これは、うちの息子が中学3年生の時に書いた意見文です。

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 みなさんは物事を伝えたいとき、何に気をつけますか?
 日本人の僕たちは日本語を話せば通じます。しかし韓国人は韓国語、アメリカ人は英語、スペイン人はスペイン語を話すので、その言葉は僕にはわかりません。
 でも、もしかしたら、言葉はわからなくても言いたい事は伝わるかもしれない。なぜ伝わるのか、どのような言い方をすれば伝わるのか、この夏そのことを深く考える体験をしました。

 8月20日僕は東京都の千代田放送会館にいました。NHK杯全国中学校放送コンテスト朗読部門の決勝に残ってしまったのです。
 コンテスト出場者のほとんどは、放送部に所属し、日々練習を重ねてきた人たちです。まして、決勝は地区予選を勝ち抜き全国大会一次予選を通過した精鋭30名のみが出場できる狭き門です。この夏まで野球をやり、朗読の「ろ」の字もなかった僕にしてみれば、決勝に残ったのは奇跡でした。夏休みのたった数日の練習では、他の出場者と比べ技術は雲泥の差。そんな僕がなぜ決勝に残れたのでしょうか。

 僕はあさのあつこさんが書いた『バッテリー』という本の一部を朗読しました。いくつかの課題図書の中からこの本を選んだのは、全部読んだことがある本がこの本しかなかったという単純な理由でした。
 初めて朗読した時はきれいにうまく読もうとしました。でも母に
「それではダメだ。きれいに読めばいいってもんじゃない。伝えようとして読まなければ内容が伝わらない。」と言われてしまいました。読み聞かせのボランティアをしている母は、高校時代このコンテストに出場した先輩に当たります。母に「その情景をイメージして読むんだよ。」と言われましたが、自分の中ではイメージして読んでいるつもりでも、そうではない、そうではないと繰り返されるばかりです。一体どう読めばいいのかと試行錯誤していると、母がこんなヒントをくれました。
「きれいに読むのなら毎日練習している人たちにはかなわない。でも野球を題材にした文章だから経験者ならではの朗読ができるはずだ。自分がプレーしているときのスピード感や間を頭に思い描く。ただ文を読むんじゃない。内容を相手に伝えるんだよ。」と。

 僕が朗読した部分にこんな文がありました。
「……足元のタンポポをふみしめた。胸をはり左足を大きく上げる。手首をそらしたまま頭の後ろから右うでをふりおろす。ストライク。ど真ん中。……」 
 僕は小学校時代ずっとピッチャーでした。その感覚は体に染み付いています。足元のタンポポはピッチャーのプレート、主人公のきれいで迫力のあるピッチングフォームをイメージし、ボールが手から離れてミットに入るまでの間(ま)、そして、そのボールがまっすぐ、ど真ん中に飛び込んでいったときの気持ち、経験者ならではの読みができました。技術では未熟な僕の朗読ですが、強くイメージして読んだことで情景が伝わったのだと思います。

 イメージの大切さは審査員の声優の方も講評で触れていました。「レモン」と言う言葉があります。フォークで絞ったレモン、のみ口についている輪切りのレモン、口の中にジュワーっと広がるレモン、様々なレモンがありますが、自分が伝えたいと思うレモンを相手に同じように伝わるように強くイメージし、それを言葉として表す訓練をしているそうです。

 読む朗読から伝える朗読へ。ただ文章の字だけ追いかけて上手に読み上げただけでは訴える力が弱くて伝わりません。自分の中で内容をしっかりイメージし、相手に伝えたいという強い気持ちを持って発した言葉には説得力があり、伝わる力が強まるのです。

 僕は今、生徒会の副会長をしています。生徒会活動の中で全校の皆さんに何か伝えなければならない事はこれまでもいろいろありました。そんな時、僕は準備した文章を、ただうまく読んだだけではなかっただろうか。
 伝えると伝わる。今の子供たちは、コミュニケーション能力に問題があるなどと言われたりもします。これからは、今回感じたこと、考えたことをいかして、内容をしっかりイメージし、皆さんに伝えたいという強い気持ちを持っていろいろなことを発信していきたいと思いました。

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