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お暑うございます。
13年前のちょうど今頃、当時中学3年の長男がこんなことを言い出しました。
「お母さん、朗読のコンテストに出てみたいんだけど」

はい???


野球少年の長男は当時硬式野球のクラブチームに所属していました。
夏の信越予選準々決勝で敗退し、さあいよいよ受験勉強に本腰を入れてちょうだいね…という時期です。
それなのに、なぜ急に朗読?

聞けば、どうしても行きたい高校の推薦入試のためとのこと。
どうしてもあのユニフォームを着たいとずっと思い続けている、小学生の時からの憧れの高校です。
でも、残念ながら信越ベスト8ではその高校の推薦基準には遠く及ばない…。
そこで彼は考えました。
「僕が全国レベルで戦えるものは野球以外に朗読だ!」

うーん。
確かに君は音読はまぁうまい。
けれど、そんな都合よく今から挑戦できるコンテストなんてあるかなぁ。
「頼む!一緒に探して!!」

…てなことで、一番初めに調べたのはNHKの放送コンテスト、いわゆる「Nコン」です。
私も高校時代に放送委員会の代表として出場したので、Nコンには高校生部門と中学生部門があると知っていました。
で、調べると、締め切りまで後一週間!
一週間?!
うーん、一週間かぁ…。
いくら音読が上手いといっても、発声練習もしたことがない、滑舌も甘い野球少年の中学生が、一週間で全国レベルになるのか?

そんなことを思いつつ、一応NHKに電話しました。
「まず県の大会事務局に問い合わせてください。全国大会の締切まですぐですが、長野県ならもしかしたら間に合うかもしれません」と。
聞けば、当時長野県は県内の参加者が非常に少なく、全国大会の出場枠が余っているとのこと。

NHK杯全国中学校放送コンテストに挑戦する


もうそこから怒涛の一週間です。
あちこち問い合わせ、担任の先生に了解をとり、書類を揃え…という事務作業と並行し、作品選び、練習、録音までやらなければいけません。

〈課題〉次の指定作品のうち、1編をえらび、自分の表現したい部分を決め朗読する。作品のアレン ジ・途中の省略は認めない。翻訳作品は、必ず指定された訳者による本を使用すること。

ア.朗読のはじめに、都道府県名、名前、作者名(訳者名は読まない)、作品名を述べ、それを含めて 2分以内で朗読する。(録音時の編集不可)

第40回 NHK杯全国中学校放送コンテスト 朗読部門 参加規定

その年の指定作品の中でどれを選ぶかはすぐ決まりました。
あさのあつこ作 『バッテリー』一択です。
なぜなら、指定作品の中で彼が全部通して読んだことのある本はそれしかないから。
他の本は読んでいる時間がありません。

ご参考までに、今年度の指定作品はこちら

① 『坊っちゃん』 夏目漱石著 (角川文庫)
② 『泣くな研修医』 中山祐次郎著 (幻冬舎文庫)
③ 『ブロードキャスト』 湊かなえ著 (角川文庫)
④ 『もものかんづめ』 さくらももこ著 (集英社文庫)
⑤ 『ごきげんな裏階段』 佐藤多佳子著 (新潮文庫)
⑥ 『トム・ソーヤーの冒険』 マーク・トウェイン著/柴田元幸訳 (新潮文庫)

第40回 NHK杯全国中学校放送コンテスト 朗読部門 参加規定

で、13年前に戻ります。

まず『バッテリー』の中からちょうどいい感じに2分以内で読める部分を探します。
私の探すポイントとしては、最後の一文のおさまりがいいこと。
プロならどんな文章でも「ここで終わり」感を出して読めますが、練習したことがない人はそれが難しいのです。
だから、普通に読んでうまいこと「終わり感」が出る一文を探し、そこから遡って2分になるような箇所を選びました。
いくつか候補を出し、試し読みして相談し、朗読する文章が決まりました。

あとは練習あるのみですが、これが不思議なもので、やればやっただけ上手く読めるようになるかというと、意外とそうでもありません。
初めて読んだ時が一番良かったりするのです。

私は書道をやるのですが、書道も同じ。
一番最初に書いたものが一番良かったりするのです。
先生によると
「一番最初が一番上手く、だんだん下手になる。そうなると「もういいや。もうやめよう」と思うが、それでも諦めずにコツコツ練習すると、あるとき霧が晴れたように素晴らしい字が書ける」とのこと。

朗読もそうです。
コツコツ練習しているとある時急に「うまくなった!」みたいな時があるのですが、今回は何しろ時間がありません。
仕方なく、常に一番最初の読みになるよう新鮮味を大事に、朗読→勉強→休憩→朗読…という感じで、間を開けて小刻みに練習しました。

鼻声をどうにかしないと!

ところがここでアクシデントが起こります。
アレルギーだかなんだか、急に息子の鼻が詰まり出しました!
あぁぁ〜〜〜、鼻声!!!

「耳鼻科に行って、鼻が通る薬をもらってくるように。先生に「即効性のあるものをお願いします」って頼むんだよ!」と指令を出し、息子を近所の耳鼻科に行かせました。
いつもなら私の指令など鼻でせせら笑う思春期の彼ですが、何しろ今回は自分の希望でやっていることなので、文句も言わず耳鼻科へ。

「ただいまー」
「どう?薬もらえた?」
「いや、先生に、「そんな都合のいい薬はありません」って言われた」

ガーン。
でもまぁ、そりゃそうか…。

困ったなぁ、録音するときだけでもスーッと鼻が通らないかなぁ…。
ネットで検索すると、こんな記述が。

当時見たのはこのサイトではありませんでしたが、とにかく、大根のおろし汁を脱脂綿に染み込ませて鼻に詰めるといいと。

そんなわけで、やりました。大根おろしの鼻栓。
なんと、それなりに効き目がありました!
(いまだに息子に「あの鼻栓は辛かった」と恨みがましく言われます…)

そして、鼻が通った時に「いまだ!」と録音。
当時はカセットテープです。
あまりにクリアに録音しすぎると粗が明らかになってしまうので、ちゃんとしたマイクでなくカセットデッキの内蔵マイクで録音。
あの手この手で、なんとかまぁまぁな朗読が録音でき、締め切りギリギリに提出しました。

実はもうカセットテープを送った段階で「全国大会出場」です。
ありがたい話です。
4年後に次男も挑戦したのですが、次男の年もやはり参加者が少ないので県予選がなく、長野県の事務局にコンテストの参加表明をした段階で「祝 全国大会出場」という記念の盾が送られてきました。(長男の時はありませんでした)

イメージして話すことの効果

そして、結果発表の日。
ダメ元で確認したのですが、なんと決勝進出者に息子の名前があるではありませんか!!!
びっくりです。

なぜズブズブの素人の彼が全国大会の決勝まで残ったのか、それについては本人が分析していますので、こちらをご覧ください。

本人の分析の通りだと思います。

声というのは、心と体に連動しています。
文字を声にしただけだとそれは単なる音にすぎません。
その場面を想像して発した声、自分の経験をもとに発した声、その気持ちになって発した声というのは、イキイキとした表現とともに相手に伝わるのです。

場面や気持ちをより印象的に伝えるには「イメージして話す」こと。
今、AIのアナウンサーもとても自然にニュースを読むので、内容は理解できます。
でも、発声、滑舌を含めた話す技術だけでは、その人の人となりが表れるような、聞き手の印象に残るような話し方にはならないのです。

私の所属するアナウンス発声協会では「イメージする」ことをとても大事にしています。
「イメージする練習」のための教材があり、イメージ前後の表現の違いを体感してもらえるようになっています。

そんな13年前の出来事を思い出した夏の1日。
息子は、この朗読コンテスト決勝進出が効いて、これまた奇跡的に希望の高校に合格。
憧れの野球部で憧れのユニフォームを着てプレーすることができました。

息子の後輩たちが今年神奈川大会で優勝し、夏の甲子園大会に出場します。

私はバリバリの文化系人間で、体育会的思考には嫌悪感すら抱いていましたが、この慶應高校野球部の「エンジョイベースボール」には感銘を受けました。
部訓も素敵なんですよ。
それを語ると長くなるので、またの機会に。


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