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#81 【放送後記】第10回ふりかけラジオ「学校から飛び出して」

2月24日に第10回ふりかけラジオを放送しました。
今回の放送はこちらからお聴きいただけます。


今回は中学3年生が、地元市長へ政策提言をおこなった社会科授業の取り組みを中心に、高校の若手教員にもはいってもらって、総合学習・知識ってなに?という話題です。

いつも感心するのは、カナル君の標題のつけ方です。
「教室」から飛び出すのはいずれ「教室」にかえって来るイメージですが、「学校」から飛び出す―――というのは「教室」から飛び出すのとは意味が違うと思うのです。卒業はまさに「学校」からの飛翔です。飛翔できる能力と資質の準備があってこそです。精神的/学問的に外とつながることは大事で、学校という目に見えない枠組みから授業ももっと飛び出せないか、を考えてみました。そのうえで学校とはなにかを考えてみたい。

そもそも学校ってなに?という再定義の問題があります。
以前は、みんなが学校を安心して教育をうけるコミュ二ティとして共通認識できていた。いまそれがない。その理由は様々です。ではどうすればそうした課題を乗り越えられるのか?学校が学校らしくあるとはどういうことなのか?

結論をいうと、学校にできることは、学校を外にひらいて、社会とつなぐ。そのためのカリキュラムをつくるということです。これだと十分に飛び出せる。生徒は未来からの使者であり未来の社会をつくります。そもそも生徒は未来なのだから本源的に学校から飛び出している存在です。だからカリキュラムは未来に向けての意味をもたないといけない。未来は当然過去の多くの経験とその学問的蓄積とつながっています。過去と未来を繋ぐのが学校なのです。教室に未来が見えることです。

その未来とは、知識経済の社会です。教授中心の授業がその後の人生の失敗を招く社会です。事実と手続きを教授すれば成功できる社会が産業社会です。これからは、統合され利用可能で活発に生きている酵母菌のような知識が準備されなくてはならいのです。知識は活動的なのです。

教室に未来がないとき、カリキュラムは学び手にとり意味のない時間の浪費や桎梏となります。するとそこからの離脱が始まる。席に座っていても精神的に離脱する。身体と精神が分裂したときに調整をはたすのが適応ですが、適応がうまくいかない時に不登校になったり適応するすべを覚えるという、いわゆる潜在カリキュラムがかってにつくられてしまう。やる気のなさはそうして醸成されていきます。

そもそも教育というのは持続可能な人間社会にむけた次世代への投資です。ゆえに教育には公共性が経験に先立ち当然のこととして含まれています。教育を個人の利害・損得勘定で考えること自体、相当間違っていることになります。最近の新自由主義的な発想の危うさは、教育を投資効果=経済効果の側面だけで捕捉しようとすることなのです。そして経済成長だけにとらわれてしまって、生きる意味や価値を問うことを忘れてしまうのです。

なぜそうした議論がいままでなかったのでしょうか?
いままでは、教育資源が学校内に限定されていました。社会は経済的に貧困だったしそれゆえ教育を受けることが貧困から抜け出し階層移動をする重要なチャンスだった。また、人としての在り方を世の中という常識がささえていました。人々が共通認識をもっていて、そういうものだと納得していたからです。教育は大事だという正統性がありました。個人的な話ですが、大学時代にアルバイトをしていたとき、それは配送だったのですが「わしには学問がない」ということをある年配の男性が呟きました。いいかえると、だからこの仕事しかない、ということだったかもしれません。もっと勉強する環境が欲しかった、ということかもしれません。学問は人間を支えてくれるのです。

よく考えると、公教育を受けている人の総体としてまとまりがあるから、この国のなんとなくの社会は成立しています。もちろん完璧ではありません。ただ公教育が機能しない社会を想定すれば、それは「万人の万人に対する戦い」となるでしょうし、教育は私事化して個人の利権の道具になるでしょう。

総合学習はそうした今まで学校の在り方を変えていっています。総合というのは、人知です。ヒューマニズムです。学問体系を総合的に援用し未来にむけて土地を開拓する挑戦的で努力を要する活動的な学びです。そこには同僚他者との協働があります。つまり、いままで人類が営々とおこなってきた未熟な活動そのものです。だから、偏差値で表現するようなありふれたコピペの世界ではなく、多様で混沌としたしかし透明度の高い学びの世界なのです。


「ふりかけラジオ」は隔週(毎月第2・4)土曜日の21時30分から、FM805たんばに乗せてお届けしています。
次回は、2024年3月9日の21時30分からの放送です。
FM805たんばの受信地域外の方も、こちらからインターネットサイマルラジオでお聴きいただけます。
それでは、また次回の放送でお会いしましょう。おやすみなさい。

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