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[CD] Bordeaux Concert

Keith Jarrett, 'Bordeaux Concert' (ユニバーサル UCCE-1194, 2022 [SHM CD])

Keith Jarrett, 'Bordeaux Concert' (2022)

Recorded live 6 July 2016
Auditorium de l'Opéra National de Bordeaux
Engineer: Martin Pearson
Producer: Keith Jarrett

まず、驚くのはひと続きが短い。1曲1曲が短いのだ。

いちばん長い Part I が13分弱。ほぼ無調の現代音楽風。

Part II は3分を超えたところで、リズミックなテーマが浮かんだのか、すこし躍動を始めるがそれも1分くらいで終わる。

Part III は弾きだしたとたんに傑作とわかる。ピアニスト自身も霊感が降りてきているのがわかっている。このボルドーの会場のピアノとやっと息が合った感じだ。ピアノが鳴っている。それがわかるとピアニストはほんとにうれしい。おそらく観客にもうれしさは伝わる。幸せなときだ。しかし、わずか4分で終わってしまう。もっと聴いていたいくらいだ。

Part IV は北の楽想が流れこんだ感じだ。ちょうどサンベアコンサート(1976年)のときの札幌のように。おそらく、Part II と III で少し熱くなった自分のハートを冷ますような流れがしぜんにうまれたのだろう。

Part V はおそらく2016年当時の世界の息吹を反映したような演奏。とても現代的。ブツブツと何かが湧いては様相を変えてゆく。

Part VI は静かな美しい曲調。騒然とした世界とはまた違う静穏な美の世界。キースの中では矛盾なくそれらが共存する。彼の心は鏡のようにそれらを映し出す。

Part VII は Part IV と同じく札幌を思い出す北方の楽想。ああ美しい。豊かさがだんだん増してくる。たまらない。至福の7分。

Part VIII は力強い。みんな大好きブルーズ的曲調で、キースのうなり声が冴える。ブルーズがベースには違いないが、これまで聴いたこともない曲調。右手がよくうたう。

Part IX は一転してリリカルな美しさを湛える。静かな湖畔にいて、鳥の声が聞こえてきそうだ。湖面に木々の緑が映える。すばらしいポエジー。

Part X はペダルをふまずに高音域で跳ねるような音がさまざまに組合わされる。偶数拍子なのでいつでも中低音域からゴスペル展開に行けるが、行きそうでなかなか行かない。

Part XI はスペイン的なロマンを感じさせる哀愁の曲調。ヨーロッパ大陸にいることを感じさせる。キースにはラテン的なところがあると時々感じるが、これもそんな一面をのぞかせる。

Part XII はジャズ・スタンダード曲のようなリリシズムを湛える。アイルランド系の作曲家が作りそうな曲だ。

Part XIII が最終曲。日がとっぷり暮れたあとの暗い湖面を思わせる。一見して何も動いていないように見えるが、実は無数の動きがある。水中はそれなりに透明なのだ。

帯に〈ECMデビュー盤となる初のピアノ・ソロ・アルバム『フェイシング・ユー』から50年——〉と書いてあり、そうかあれのリリースが1972年だったのかと思う。

キースの本質はちっとも変わっていない。が、とんがり具合がどうなったか。ちょっと丸くなったか。

和声的には Facing You は超絶的にすごかった。あれほどの和声は本アルバムでは一聴したかぎりでは聞こえなかった。

だが、これから、繰返し聴き、愛聴盤になってゆくことを確信したアルバム。


米盤に附属(?)の写真

#CD #KeithJarrett #ピアノ #即興演奏 #ジャズ #現代音楽

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