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BOSCH Season.7(Final)を観終えました。

今回は単に好きなドラマを観きった感想文で、それをダラダラと長く書きます。なにかの参考になれば幸いです。


BOSCH

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予告編

BOSCH/ボッシュ シリーズは、いまの世の中には時代遅れになりつつある本当に硬派な「ハードボイルド」刑事ドラマです。
ベストセラーのハードボイルド小説「ハリー・ボッシュ シリーズ」のドラマ化で、製作総指揮は原作者(マイクル・コナリー)です。
Amazonのオリジナルドラマとしてスタートして7年続いた最長継続タイトルだそうです。
コナリーは、映画「リンカーン弁護士(小説「刑事弁護士ミッキー・ハラー シリーズ」)」の原作者でもあり、Netflixでドラマ化が決まりました。
※ちなみにリンカーン弁護士ことミッキーはボッシュの異母弟です。

ボッシュは湾岸戦争や9.11後のアフガンにも投入された元グリーンベレーの退役兵で、LAPD(ロサンゼルス市警察・ハリウッド署)殺人課の刑事という設定です。
優秀な刑事である反面(ハードボイルドの定番ですが)非常に頑固者で横暴で孤独で周囲を無意識に振りまわし傷つけてしまう、問題のあるオヤジとして描かれています。
(結局は理解ある家族や仲間に支えられて活躍をしているわけです。)
LAPDではレジェンド刑事でありながらも事件解決の強引さやトラブルから厄介者としても扱われる、決して綺麗ではないヒーローがボッシュです。
ただ、それほどまでに強引にやらなければ解決できないほどロサンゼルス市では複雑な事情を持った凶悪犯罪が秒単位に起こり、多くの命が奪われています。ある意味LAPDの過酷さ、LAの闇を表しているでしょう。

作中では凶悪事件だけでなく、移民、人種、性別、貧困、腐敗、薬物ありとあらゆるLA(=US)を構成する闇がエッセンスとして盛り込まれ、物語のテーマに据えられています。
LAPDの活躍という面だけでなく警察腐敗や政治問題にも触れながら現状の社会をリアルに描いているため、毎シーズン後味の悪い終わり方で救いのない無情さを苦みとして残していく点も現実味があります。
事件は解決しても、それで万事救われるわけではないという現実です。
たとえドラマであろうとも刑事の仕事・犯罪には爽快な解決などなく、現実には「苦みとむなしさが常につきまとうものなんだよ」ということを示していてエンタメ刑事ドラマの対極です。
著者コナリーは、ピューリツァー賞候補にもなったジャーナリストで、LA TIMESの事件記者として3年間LAPDの活動を追った経験から、このリアルな刑事ドラマが生まれたそうです。

ボッシュの問題を孕んだ人格形成は、兵役や凶悪事件の経験だけでなく売春婦だった母親が殺害され孤児院に送られ、そこで暴力的な虐待を受けたつらい成長過程も関わっていて、これが彼をコミュニケーションが上手にできない男にしてしまった原因にあると想像できます。
また、ボッシュの人生は喪失の連続です。
愛する人間を失う、期待すれば裏切られることがテーマの根底にあり、彼を常に虚しく救われない男として描き、彼の心の傷は癒されないばかりか新たな傷跡を増やします。
ハードボイルドの宿命ですが、愛した女はよく死ぬ友人も死ぬみんな死ぬを地で行っています。それでも満身創痍のボッシュの心を社会と正義に繋ぎとめているのは、娘(マディ)の存在が大きいでしょう。

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マディは、ボッシュ同様に頑固で、気難しく、危うく、しかめっ面のコミュニケーション下手だが、似たもの父娘の父親に深い愛情とリスペクトを示し孤独なボッシュを癒す存在。
同時に勇敢で賢い娘で、最終話では父親すら想像していなかった大きな決断をします。
自身のトラウマを乗り越えそこに至るといった成長劇は素晴らしく、今後のスピンオフ作品にも重要な意味をもたらす成長が描かれています。
少しギクシャクしながらそれでも通じ合う不器用な父子家庭像を地味だけれどリアルに描き、上手くまとめラストに向けて着地させています。

登場する仲間達、協力する人達、邪魔する人達、犯罪者達、被害者達そのすべての人間性を丁寧に描いていて、現実にいる隣人の隣人といったリアリティを持たせていることも作品性を確固たるものにしているように思えます。
誰もが経験するようなことを劇中の人も経験し、誰かが陥るような悲劇や悪意に遭遇します。現実社会の縮図を「面白さ」ではなく「地続き」に構成し描ききったところに、このシリーズが長期ヒットの理由が隠されていると思います。
日本人には共感しにくいでしょうが、USでは自分事化できる断片が多くちりばめられているのでしょう。

家の中では家の中の問題。外に出れば嫌なニュースや不安ばかり。
誰もが上手くいかない日々を、嘆いたり悔やんだりしながら過ごし、それでも何かを拠り所に今日も正気を保って生きている。
そんな日常を生きるボッシュと仲間達が被害者の尊厳を守るため犯罪者と対峙する物語は、日本のドラマが持つ過度にデフォルメされ矮小化され浮き足だったような空気を蹴飛ばすぐらい重苦しく、深く刺さる、生々しい痛みを伴ったものだと思う。「BOSCH」は、観ればその重みで嫌になり暗澹とした余韻だけが残るでしょう。
社会における嫌なものすべてがここに含まれ、現実と地続き過ぎるリアリティが楽しさとは違う別の感想を抱かせるはずです。
ですが、その感情を超えて作品の完成度や良さも味わえると思います。
誰もが知るロサンゼルスの街並み、区画を隔てれば貧富の差が天地ほどの街、高台からそんなLAを見渡すボッシュ邸の素晴らしい眺望も見どころのひとつでしょう。
時代遅れのハードボイルド作品でも、たまには観てみるとなにか刺激になるのではないでしょうか。表現に気づきを与える、おすすめです。

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余談ですが、ボッシュのファイナルシーズンは「2020年1月1日」という時間軸から開始します。
シリーズクライマックスでは、何気ない日常のワンシーンに「中国武漢からの入国者を…」とCOVID-19の影響が影を落とし始めているニュースが流れ、マディの恋人(医療従事者)はそのニュースに表情を曇らせます。
そして、ジョージ・フロイドさん事件が起こる以前という設定です。
ドラマであっても、現実から目を背けていない信念を感じました。

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