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『ハッセルブラッドの日々』ノート

藤田一咲著
枻(えい)出版社刊

 いきなりだが、筆者の趣味のひとつは写真撮影である。カメラも複数台持っている。世の中は、皆さんご承知のように、最近はデジタルカメラが主流で、さらにはスマートフォンがそれにとって代わろうとしている。

 趣味の始まりは、高校時代で、中古のフィルムカメラ、ソフトフォーカスの名機といわれたペンタックスSPが欲しくて、バイト代を貯めてやっと購入した。最初は50㎜の標準レンズのみ。その後、35㎜のワイドレンズや望遠レンズを買い足していった。
 その後、社会人になってからはZeiss(ツァイス)レンズを使いたくてコンタックスを複数台購入し、レンズも28㎜の超ワイドレンズから200㎜の望遠まで徐々に買い揃えていった。中でも85㎜のプラナーT*F1.4は、レンズの大きさと輝きも描写力も素晴らしいレンズであった。

 そして、時代はオートフォーカスカメラ、デジタルカメラ、ミラーレス一眼カメラと進み、ついにはスマートフォンと進化してきた。
 しかし、筆者はフィルムカメラが好きで、ついにフィルムカメラの頂点に位置するハッセルブラッド(正しくはハッセルブラードというらしいが…スウェーデン製)というカメラを買ってしまう愚挙に出てしまった。レンズはやはりZeissの85㎜標準レンズ。中古とはいえ、いい値段だったが、店で手に取って(すごく重い!)、カラシャッターを切った瞬間(バシャといういかにも撮った感のある重い音がいい!)「これ買います」と口から出ていた。頭から一万円札がパラパラと飛んでいく光景が見えた(笑)

 私が買ったのはCXという機種だ。今のカメラでは考えられないが、〝電池を一切使っていない〟のだ。だから電池切れの心配もなく、極低温から高温まであらゆる環境下で作動する。といっても筆者がそんな場所で撮影する機会があるわけではないのだが……。その特長から、1969年のアメリカのアポロ11号の月面での撮影に使われた。使用するカメラには、宇宙空間や月面でのマイナス65℃から120℃までの過酷な条件下で完璧に動作することが求められ、それに耐えるのがハッセルブラッドだったのだ。

 ちなみに月から地球に戻るのに積載量に制限があり、そのため、アポロ11号から最後のアポロ17号使用した12台のハッセルブラッドは月面に残され、フィルムマガジンだけが地球に持ち帰られたそうだ。

 すっかり趣味の話になってしまったが、このカメラはでの撮影は普通で言えば面倒だ。ピント合わせはもちろん、シャッタースピードから露出まで自分で決めなければならない。なによりも、ブローニー(6×6)判(ネガが56㎜×56㎜のサイズ)のマガジンへの装填も簡単ではない。最近は、このフィルムも街のカメラ屋では売っていない。
 なにより、撮影するのに心構えが必要だ。スマートフォンやデジカメなら、パシャパシャ撮影して、いいのを選べばいいが、これはそうはいかない。他のフィルムカメラ(35㎜・36枚撮り)も同じだが、ハッセルはそれよりも少ないたった12枚(6×6の場合)で、気軽に撮影するには躊躇うし、なによりもこのカメラがそれを許してくれないのだ。フォーカスも、上から覗くファインダーが標準で、それも左右上下が逆で、慣れないとフレーミングに苦労する。
 さらに撮影後も、そこいらのカメラ屋ではDPE(Development - Printing -
Enlargement の略、現像・焼き付け・引き伸ばしのこと。もう死語だ!)が出来ない。

 今回は、すっかり己の趣味の話になってしまったが、この本はハッセルブラッド(このカメラシステムのコンセプトを開発した創業者の名前)という、いまでは一部のマニアしか振り向かない特別のカメラへの愛に溢れている。

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