見出し画像

☆本#333 出逢い 「とらわれて夏」ジョイス・メイナード著を読んで

映画を先に観て、興味を持ったので原作を読んでみたら、こっちもよかった。
原作のタイトルはLabor day。アメリカの9月初旬の祝日で、新学期が始まる前、夏の終わり。でも、日本ではこのタイトルだとわかりづらいので、日本用のタイトルが「とらわれて夏」。これは主人公の母親がある意味とらわれるのでとても適切な感じ。表紙の絵も、ある場面を想起させる。

アメリカの住人みんなが知り合いのような小さな田舎町が舞台。主人公は夏が終わると中学1年になる男子。母親はシングルマザーで流産を何度か経験したことからちょっと精神が不安定で、自分がそばにいなくちゃと思っている。
夏の終わりに出かけた先の量販店で、ある男に声を掛けられる。その店の店員かと思っていたら、結局違って、家に連れ帰ってから脱獄囚だと知る。けど、夜逃げるまでちょっと滞在したいという。
結局その夜は逃亡せず、それから、彼と母親とその脱獄囚が数日暮らす日々、彼と父親家族の関係、母親と脱獄囚の様子が描かれる。

この脱獄囚は危害は加えないと約束し、実際それを守る。慣れてくると、実は彼が苦手だったキャッチボールを教えてくれたり、りんごパイの作り方もいっしょに作って作り方を教える。

母親と脱獄囚は恋仲になり、家族でカナダに逃げようと決める。
でも、彼のちょっとした行動から、脱獄囚は再び捕まり牢獄に戻り、脱獄しなければもう刑も終わりに近づいていたのに、脱獄並びに監禁の罪で30年服役しなければならなくなる。

大人になってパイの店を開店し、それが記事になったことで、彼の元にあの脱獄囚から手紙が届く。彼の母親に会いに行ってもいいかと。彼は喜んで返信する。母親は、得意のダンスの能力を活かして、ダンスのインストラクターとして暮らしていて、独り身だった。
脱獄囚にとってあのとき脱獄したことは後悔じゃなく、彼女と出会えて幸せだと思っていた。彼の最初の結婚が、どうやら嫁に仕組まれた不幸なものだったこともあり。。。
で、ふたりが会うだろう、というところで話は終わる。

著者は、「ライ麦畑でつかまえて」の作者の元カノ。といっても、19か20歳ごろの1年程度。本を出版した19歳の彼女に、サリンジャーが手紙を書いたことがきっかけで文通が始まり、大学在学中に、彼のいる州へ行き、いっしょに暮したようだけど、また本を出版しようとした矢先に、振られたらしい。彼女は作家というより、エッセイストとしての方が有名らしい。

アメリカの閉そく感のある田舎で、出会うべくして出会ったふたりのひと夏がコンパクトに深く描かれていて、読後感のいい作品だった。




この記事が参加している募集

#読書感想文

191,569件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?