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☆本#353,354 半醒半睡とクリーン「ゴットハルト鉄道」多和田洋子著、「悪女の品格」辻堂ゆめ著を読んで

ある意味対極な作品。
前者は、谷崎潤一郎の「刺青」におそらく影響を受けた箇所があるということで、含まれる中編3作のひとつ「隅田川の皴男」を読んでみたかったのが読むきっかけ。後者は、三股していた20代の女性保険外交員がある日、閉じ込められたり、けがをしたり不幸に見舞われ、その原因をさぐるミステリー。

前者では、著者の年譜も含まれていて、そっちのほうが興味深かった。てっきり大学でドイツ語を専攻していたので、大卒後ドイツ留学したのかと思ったら、高校の第2外国語がドイツ語で大学でもそのまま学んでいて、ドイツでの就職は、翻訳や輸入本の出版をしていた父親の紹介だった。ただ、現地の夜間の語学学校には通っていたようだ。
10代のころから小説を書いていて、大学生のときは同人誌で書いていた。ドイツで暮らし始めて3年後に日本語で書いた小説を、出会った日本文学研究者がドイツ語訳し、刊行される。その後現地大学のゼミに通ったり、ドイツ語で短編を発表したり。30歳のとき、現地で修士論文を執筆しつつ、日本語でも小説を書き、日本へ送ると賞を獲る。それが、1990年の話。
著者は、自分の作品を自分でドイツ語版に訳す(初期の方は訳者がいたようだけど)。

作品に戻る。
主人公マユコは、会社の金を横領して無断欠勤し、そのまま会社を辞める。でも、会社からはなにも音沙汰無し。隅田川の橋を渡り、記事で読んだことがある男娼のいるエリアへ行き、ウメワカと出会う。ウメワカは2浪中の予備校生で、気晴らしで男娼を始めた。その後、マユコの目がかゆくなって開かなくなり病院へ行くと、女医が目に指を入れて長い繊維状のものを取り出して食べたり、ウメワカが母親とうまくいっていないエピソードや、梅若伝説が出てくる。
「刺青」での「背中」の描写の影響は、思ったほどではなかった。もっと深い意味を想像していたので(その後の変化とか)。作品の世界観、というか設定は杉浦日名子の「百日紅」の男娼の館のシーンを想起。そっちのほうはもっとドライだけど。
著者の、なんというか、トランス状態的描写はやはり苦手、というか好みではないと実感。

後者は、小学生の時のいじめと、現代のある出来事がきっかけで主人公に起こる災難というか、報いの話で、紆余曲折もあるけど、割とあっさり解決して、真相というか深層もわかり、読後感はいい。確かに悪女ではあるけど、品格があるかは微妙。
前者を読んだ後だったからか、明瞭で説明が丁寧というかちょっと長く感じられた。とはいえ、2時間くらいでサクッと読める簡潔さ。

そういえば、ふたりとも小説を書き始めたのは10代。それから10年後ぐらいに、前者はドイツ語で本を刊行し、後者は賞を受賞した。

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