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☆本#397 正義・男女差「同志少女よ、敵を撃て」逢坂冬馬著を読んで

アガサ・クリスティー賞受賞作で2021年11月に出版された、ロシアの少女が主人公、1942年ロシア対ドイツの戦争時代が舞台。

1942年ロシアの田舎で母親と暮らすセルフィマは、害獣駆除のため母と共に狩りに行った帰りに、村がドイツ兵により侵略されているのを目撃。ライフルをかまえた母が狙撃手に撃たれ殺される。捕まったセルフィマは暴行されそうになる直前に赤軍兵士らに助けられる。その際、その場にいた女性兵士イリーナから「戦いたいか、死にたいか」聞かれる。最初は死にたいと思っていた彼女だけど、村は全滅、焦土作戦で家屋等焼かれ、母を撃った兵士と、母の亡骸を侮辱した女性兵士への復讐を誓う。

この女性兵士は、過去に有能な狙撃手で、指をなくしたことをきっかけに引退し、狙撃の指導をしていた。セルフィマはそこで、自分と似た境遇で、狙撃を習っている女性らと会い交流する。

訓練が慌ただしく終わり、実地に出る。ロシアの傘下にある他民族との関わり、仲間らの死、戦場での不条理な出来事、敵国と不倫関係にある女性との出会い等を経て、ついに母を撃った兵士の居場所を知る。
ところが、突然イリーナから教官になるよう言われるも、無視して、その兵士のもとへ出向き、敵国に捕まってしまう。とはいえ、計画があり、復習は果たす。
その際、赤軍がドイツ女性を暴行しようとしているのを目撃する。ここで本のタイトルが登場。その男、唯一の同じ村出身の幼馴染を、敵とみなし狙撃する。かつて再開した際、彼は暴行なんてしないと言っていたけれど…。

前半は若干単調な感じもあったけど、それは後半に向けた助走で、後半は胸アツ。
この作品が出版された数か月後に海の向こうで本当にこの国の戦争が始まったけど、ウクライナはこの時代にもすでに巻き込まれている。

この作品はミステリーというより、ドラマ。とはいえ、異性間の恋愛部分はドイツ兵とロシアの既婚女性(でも夫は既に死亡)の不倫のみ。主人公と幼馴染の恋という展開を想像していたら、そういうのは全くない。主人公は復讐を誓っていたうちのひとり、女性兵士が実は自分のためを思って厳しく接していたのを知り、その後共に暮らす。

話の中で、戦時中の性的暴行は男性兵士が団結するためだというシーンがある。なんだそれ。この作品でも出てきて、そこが主題的。
参考文献が20冊以上あり、一部は文中に挿入されている。

ジェフリー・アーチャー著の「ケインとアベル」という長編小説を思い出した。戦時中アベルの姉は性的暴行を受け死んでしまう。彼はなんとか故郷のポーランドを脱出し、アメリカに渡る。これは冒頭のある意味つかみ的部分だけど当時読んでてショッキングだった。


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