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☆本#305- 310 ファンタジーな文学「パレード」「ハズキさんのこと」「溺レる」「猫を拾いに」「神様」「どこから行っても遠い町」川上弘美著を読んで

「神様2011」の世界観が気に入って、著者の他の本も読んでみた。

「パレード」はイラスト入りで、「センセイの鞄」(まだ読んだことがない)のふたりが出てくる。ほのぼのしつつ不思議な世界観。「神様2011」では普通にくまがでてきたけど、こっちでは天狗が出てくる…。数冊読んだ後で、表紙裏の著者略歴にて著者が中学で4年間理系の先生だったことを知る。主人公の謙虚な語り口とかなんかつながった。

「ハズキさんのこと」
短編26作。ページ数が少なく読みやすい。1つ目もなかなか特徴的だったけど、2つ目が意外な展開で、その後も人と人とのつながりというか交流がゆるやかに描かれている感じ。表題は、主人公が15年ぶりにハズキさんに会いに行く話で、ふたりが教師をしていたころの同僚。
ある情報サイトによると、小川洋子は彼女の流派だとか。ああ、確かに。

「溺レる」「猫を拾いに」
どちらも短編集。前者は、読み始めて、あ、失敗したかも、と思った。ので、途中でやめて、後者をかなり読んでから、また前者に戻ったりしてやっと読めた。
前者は文芸誌、後者は女性が読む雑誌での連載で、おそらく読者層を意識して書かれているせいかもしれない。個人的に後者のほうが読後感がよい。
前者では心中をして生き残った女性が語り手の話があるんだけど、この設定って結構新しいのでは、と思っていたら、著者の作品では結構亡くなった人やら地球外生命やら言葉を話す動物・植物系(?)やらが普通によく登場する。主人公の人間は意味順応性が高い。
そして、どちらも語り手が性別も年齢も多岐にわたっていて、似てないけど共通点があるような、謙虚でたぶん頑固な、そういう人々。

前者の全体的な展開というか様相というか、はあまり好きではないけど、「…(略)いとおしかった。可愛かった。そして、どうでもよかった」という表現は共感。情熱があってもそれだけじゃなくて、投げやりというわけでもなくて。
後者の最後の話は、霊が見えて京都に行きたくない同僚との話で、突っ込みどころもあったけど、出てきた霊は信長ではないと思う。

「神様」
短編集。表題が1994年に新人賞を獲っていたとは知らなかった。が、確かに類似系の作品って思い当たらないし、SF系の募集(選考委員は筒井康隆、小林恭二ら)なので話はフィットしている。専業主婦のとき書いたというのは、小川洋子を想起した。アラ還世代以上って主婦という選択肢が主流だったのがここからもわかる。
表題以外にも、ことばをちょっと話せる植物の精(?)、死んだ叔父、河童、壺から出てくる女性(?)、尋常でない場所(異空間的?)にいる男、人魚などが出てくる、普通に。
なんというか、ファンタジーも交えつつ、しっかり文学で、ちょっと考えさせられたり。
この本を読んでよかったと、最後の短編を見つけて思う。冒頭のくまがまた出てきて、故郷へ帰る話。くまに名がないのはここでつながる。

「どこから行っても遠い町」
短編だけど、同じ町が舞台なので、それぞれの語り手が別の話で少し出てきたり、視点が変わることで一層客観的に見れたり。人懐こい登場人物の違う側面、奥底の理由が最後の最後に出てきたり。
この本では不倫がいくつかと出てくるんだけど、著者が書く不倫はさらっとしていて、なんというかある種主人公らにとって片手間的というか、透明に近いグレーというか、どろどろとか恨みつらみとかの対極にあるような。とはいえ、食べるシーンが割と多くて、無機質ではなく。
別れそうな二人が別れていなかったり。

著者は小学校に入る頃3年ほどアメリカにいて、日本の小学校ではイジメを受けたり、1学期分大病をしたりして、小学校高学年で転校したという。それでイジメの世界からは脱却できたらしい。現実的で行動的。


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