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☆本#293-296 古典、シニア、戦争 「続 古典まんだら」田辺聖子著、「マジカルグランマ」柚木麻子著、「われらが痛みの鏡 上下」ピエール・ルメートル著を読んで

「続 田辺聖子の古典まんだら 一葉、晶子、芙美子」は、3名のほかに杉田久女、吉屋信子についてもその人生が簡潔にまとめられている。
24年の人生だった一葉は、亡くなる1、2年前にかなりの作品を残していて、読んでみたくなった。有名なのはあらすじを知ってるけど。
とはいえ、明治生まれの作家は、旧かながネックだ…。
彼女は今年生誕150年!なんと、この本を読んでいた日が誕生日だった。さらに先日「鏑木清方展」で、彼が描く彼女の絵を見た。意識すると重なる偶然。記念館も行くべきか…。

林芙美子は有名だし、ほかの作家がエッセイや小説で描写してるけど、彼女が男性の本質をつかむ、という著者の意見は新鮮。
著者は彼女が難しい言葉を使わない点の指摘や、天性の詩人とほめているいて、確かに「すこやかな世界」という表現はいい。年を重ねるごとに作品も深みを増したらしく、ここで紹介されていた作品はいくつか読んでみたい。

吉屋信子の名前は聞いたことがあったような気がする。が、読んだことはない。彼女も年を重ねるごとに完成度が高くなっていったらしい。
長寿の画家も60歳以降の作品のほうが完成度が高いと思っていたので、なんか納得。そういえば、20代後半でデビュー作がベストセラーになった原田康子も70歳前後で大作を書いて賞をとっていたはず。
少女小説の元祖だったとは、知らなかった。

林芙美子と吉屋信子の作品の文中には、明治~昭和初期の男尊女卑(家父長制を守る頑固で厳しい父親を持ち、女子ということで進学させてもらえない等)、男性同士の暴力的なシーンが描かれていて、時代を感じさせる。
この二人は、仲が良かったそうなのでそこはなんかほほえましい。

「マジカルグランマ」は、74歳の元女優が主人公。夫と同じ敷地内別居中で離婚したいけど、夫が応じず。義両親が残した洋館を改築しそこに住まわされている。夫は離れに住んでいる。将来の離婚を視野に入れ、女優活動開始。で、返り咲き、夫の死をきっかけに正直過ぎるコメントで業界を追放され、それでもめげず、関わった周りの人と、自宅を利用したビジネスを始めて成功する。この辺たくましい。
おかげでまたオファーがあって女優も始め、さらに憧れの先輩女優の紹介でハリウッドに進出しようとする。
途中、同居することになった女子とのけんか・付き合いや、認知の始まった幼馴染との再会等、ドラマがあり。
「マジカル」にはシニカルな意味がある。

主人公は、思い出の品も手放すあっさりした性格と、現実的かつ合理的判断、そして常に前向きな向上心のようなものが核にあり、世界に羽ばたこうとしていてスケールが大きい。読後感がよかった。
これからのシニアも、こういうひとが増えたらいいな。

「われらが痛みの鏡 上下」は著者の戦争3部作の最後。2作品目で出てきたルイーズがアラサーで登場。戦争シーンの語り手は兵士の男性ら。

冒頭でルイーズは土曜日だけ働いている飲食店で、常連の定年したシニアの元医者から変なリクエストを受ける。断ろうとするも、結局お金につられた結果、彼がピストル自殺を図り、その謎を解明することになる。そして、母親の意外な事実を知る。

冒頭、著者らしい展開の速さだった。
徐々に母親の真実や、隠された事実がわかり、同時に仏独戦争も深まり、現在の戦争とリンクする悲惨な描写もあり、後半は若干駆け足で終わった…。

翻訳されている彼の本はこれが最新版。次はカミーユ警部のような作品だったらいいな。ただ著者はデビューが遅かったのですでに70歳を超えている。出版のペースは落ちないでほしい。

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