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☆本#472 信頼「捜索者」タナ・フレンチ著を読んで

著者の本はデビュー作は読んでいたけど、次作(デビュー作の登場人物が登場)はイマイチ興味が持てず、2020年に出版された本作を読んでみた。
ちなみに、著者はアイルランド系アメリカ人で、ダブリンに移住。大学もアイルランドのトリニティカレッジ卒。
本作の舞台もアイルランド。

カルは48歳、バツイチで元シカゴ市警の刑事。警察の仕事に嫌気がさし、退職・離婚後、アイルランドの田舎に移住し、毎日家の修復をしている。娘はもう社会人で自立している。
家は安く購入できたが、長年廃屋だったため、修理をしなければ住めない。普段接するのは、400mほど離れた隣に住む、ちょっと変わり者でおせっかいなシニアのマートぐらい。

ある日、前の住人が置いていったデスクを外で修理していたカルは視線を感じる。捕まえようとするも、噛まれて負傷。相手はどうやら子供だとわかる。再び来たその子供、トレイに気付いたカルは、デスク修理の仕事を手伝わせる。無口なトレイは何度か来るうちにやっとカルのところへ来た目的を話す。
それは、失踪した兄を探すことだった。
カルが刑事だったことは、周りに隠していたはずなになぜか村人には知れ渡っていて、尾ひれまでついていた。

失踪したトレイの兄は19歳。この村では若者はダブリンへ行くのが失踪のよくあるパターンだったので、最初カルはトレイの依頼を断る。が、結局、探すことになり…。


ページ数が多く、劇的なことがそれほど起きない割には、飽きることなく読めた。風景描写もほどよかった。
カルは、こじれた妻との関係を別れた後もまだ引きずっているので、おせっかいな店主から妹を紹介されても恋愛に発展することはない(少なくとも本作では)。
トレイはシングルマザーの貧困家庭で、周りともうまくいっておらず、カルはほっておけなくなる。訳者があとがきで、二人の関係性から、ロバート・B・パーカーの「初秋」を思い起こしたと。それは読んだことあるような気がするけど、久しぶりにスペンサーシリーズを読みたくなった。

今年の「世界平和度指数ランキング」でアイルランドは第3位。映画「ヴェロニカ・ゲリン」のラストが衝撃的だったので、自分の中でこの国は上位ではない。が、彼女の事件は1996年だし、犯罪組織は地下に潜ってるかもしれないし、変化があったのかも(wikiによると、彼女の死から麻薬撲滅の機運が高まり、大規模な捜査後、関係者逮捕・組織の資産が没収されたらしい)。ちなみに、ダブリンの(確か)美術館の庭園にゲリンの胸像がある。
アイルランドは、郊外の崖、荒れた土地、野生のヤギの群れ等から全体的に田舎な印象。なので、本作の田舎の閉そく感はなんとなく理解。

ただ、本作では勧善懲悪系ではないところが多少微妙。そこより人間関係が優先的とはいえ。気のせいか最近の小説はグレーゾーン系が以前より増えたような。
女性が描く男性主人公についての違和感は少ない。


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