イチゴジャム
私は朝に弱い。布団の中でグズグズしてなかなか起き上がれない。それでも時間にせかされて無理やり起き上がると、フラフラとして真っ直ぐに歩けないほどだ。血が巡っていない。頭のてっぺんまで酸素が受給されていないから、細胞が真面目に働いてくれないのだ。
そんな調子だから高校の頃までは、平日に朝食を食べたことがほとんどなかった。週末や休日、時間に追われることなくのんびりと起きて食べる朝食は、だいたいトーストにジャム。お茶は飲んだり飲まなかったり。朝にご飯を食べる習慣が身に付いていなかったので、時間に余裕があっても凝った料理は作らないし、パパっと簡単に食べられるものがいい。
厚切りのトーストにジャムをたっぷりとのせて食べるのが好き。
十八歳で日本を離れるまでは、そのトーストにバターもたっぷりと塗っていた。みんなそうしているし、そういうもの、トーストにはバターを塗るものだと思い込んでいたから、何も考えずにバターを塗っていた。
◇
親元を離れて外国で暮らすようになって、食生活が一変した。学校の寮で提供される食事は、それまで口にしたことがないものが多く、物珍しくて色々試した結果、改めて自分の嗜好を知ることができた。
赤身の肉はそんなに好きじゃない。肉の脂身やバターを食べると胸がつかえて調子が悪くなる。カリカリポリポリと食べられる生野菜スティックが美味しくて感動した。チョコレートが好き。ピーナッツバターは万能だ！等々。
◇
朝食にはたっぷりとジャムをのせたトーストがいい。でもバターはつけない。ピーナッツバターとクリームチーズという存在を知ったから。
クリームチーズってめっちゃ美味しない？カロリーがバターの半分でヘルシーってことらしいけど、塗る量バターの倍以上！全然ヘルシーちゃうねん。
ピーナッツバターのカロリーはあえて見ないし気にしない。職人が土壁を仕上げるように、隙間なくボッテリと分厚くのばしてトーストを塗る。
ピーナッツバターやクリームチーズを塗った上に、ジャムをたっぷりとのせたトーストを食べると至福がダラダラとあふれ出す。ちなみに、ピーナッツバターとクリームチーズを同時に塗って食べると口の中がモチャモチャとしてエライことになるので要注意です。
◇
私の朝食にジャムは欠かせない。フランスに住み始めてからはジャムの種類の豊富さに驚いて、色んな種類を試してみた。お気に入りはスーパーで買えるBonne Maman。
よく買うのは、ブルーベリーやミラベル、イチジクなど。イチゴはド定番過ぎてなかなか買う機会がないけれど、小さい頃家の冷蔵庫に入っていたジャムは、アヲハタのイチゴジャムとオレンジマーマレードだった。ブルーベリーは少し後になってから流行り出したので、小さな子供だった私が一番初めに手を出したのは赤いイチゴジャムの方。つまり、生まれて初めて食べたジャムはイチゴジャムだった。
なんとなくそんなことを思い出しながら、郷愁に駆られて久しぶりにイチゴジャムを買って食べてみたら改めて美味しい。甘さ控えめで程よい酸味。ゴロゴロと大きいイチゴの粒が入っている。豪華で満足できる味。
昔日本で食べていたイチゴジャムってもっと甘くてゼラチン質だったような気がするけど、久しぶりに買ったBonne Mamanのイチゴジャムはドロリと自然なテクスチャー。イチゴジャムってこんなに美味しかったっけ？
実際、パパっと簡単に食べられる朝食ナンバーワンはシリアルだし、長い人生、シリアルに浮気をしたことも確かに何度かあった。でもでも、私が本当に好きな朝食はジャムトーストにミルクティー。ピーナッツバターやクリームチーズはあってもなくてもいいけれど、ジャムがなければ味気ない。
◇
昨今の健康ブームにのっかって、砂糖は毒だと言う人がまた私の周りに出現し始めた。考え方は人それぞれ、その人たちの信念を否定するつもりは全くない。ただ私にとっては、健康に良いと言われているものでも悪いと言われているものでも、何でも取り過ぎは良くない、そう思う。
朝、脳がうまく機能しない私にとって、砂糖たっぷりの甘いジャムはブースター。ジャムで摂取する分、ミルクティーにはあえて糖分を加えない。それでいいじゃない。
何でも自分で考えて、試してみて、それで決めればいいじゃない。私はトーストにバターを塗らなくなったし、長年食べていなかったイチゴジャムがこんなに美味しいって再確認した。
最近、南仏の朝は薄暗い。雨が降る度に少しづつ気温が下がる。窓の外に広がる雲の多い空を眺めながらトーストに赤いイチゴジャムをのせる朝。ジャムになったイチゴの深い赤色がキラキラと輝いてめっちゃキレイ。
補足：トーストやパンケーキにバターを塗って食べると即効胸やけします。でも、バターの入ったクッキーやケーキを食べても大丈夫。そりゃあ食べ過ぎると胸やけするけど、普通に食べられます。同じバターなのに不思議～。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか？