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エビフライのしっぽ
貧乏人やと思われるから、好きなもの聞かれてエビって言うたらあかんで。
小さな頃、母親にずっとそう言われてきたにもかかわらず、私はあちこちでエビが好きだと言いふらかしていた。ダメと言われたら余計にやりたくなる、あまのじゃくな年頃だったのだ。
エビ好きが貧乏人?何故?
母親の言う言葉の意味がよく分からなかったというのも、ついムキになってしまった原因のひとつかもしれない。大人になった今でも全くもって不明だし、理解できない。本人に聞いても、そんなこと言うたかなー?と、はぐらかされるばかりで真相は闇の中。
多分、外食の度にエビ料理を注文する私に、お子様ランチとかオムライスとか、子供らしくかわいいお値段の料理を注文してほしかったからじゃないか?と推測するが、本当のところは分からない。
◇
エビ料理の中でも特に好きだったのはエビフライ。サックサクの衣にブリンブリンのエビの身が包まれていて、噛み応えも食べ応えもしっかりあるところが食べ盛りの子供には嬉しい料理だった。こってりとしたタルタルソースで食べるもよし、濃厚スパイシーなとんかつソースで食べるもよし。白米との相性も抜群。
中身のエビが多少小さくても構わない。黄金色に香ばしく揚げられた衣に甲殻類独特のあのエビの味が混ぜ合わさると、幸せ満点。えびせんが止められない止まらないのと多分、同じ。こんなに美味しい食べ物を「好き」と言わずに他の何を好きと言えばいいのだろう。
◇
中学生になって給食が無くなり、昼に友達と弁当を食べるようになったある日、不思議な光景が目に飛び込んできた。空の弁当箱にエビフライのしっぽがポツンと取り残されたまま、蓋が閉じられようとしている!女子用の小さな弁当箱の中身は米粒ひとつ残さずきれいに完食されているのに何故、エビのしっぽだけが残されているのか?
「エビのしっぽ、食べへんの?」友達に尋ねてみた。すると即座に、「食べへんよ。え?食べるん?は?」
その友達は、私がエビのしっぽを食べることが信じられない様子で、目を見開きながら逆に尋ねてきた。
蒸したり焼いたりしているエビの殻やしっぽは、流石に食べにくいから残すけど、揚げてあるエビのしっぽはカリカリとスナック感覚で美味しいから、食べるのが当然だと思っていた。私にとっては食べない方が「変」なのに、友達に言わせると、食べるのは「変」なんだそうだ。
「もしかしてあんた、パセリも食べるんちゃう?」
続けざまにそう聞かれてドキッとした。確かに私はパセリも食べる。どちらかというと、キャベツの千切りよりもパセリの方が好きなくらいだ。
その友達によると、パセリは誰も食べないから使いまわしをされていて、とても汚いから食べるものではない、のだそうだ。どうやら当時(相当むかし)、そういうことがいくつかの飲食店で実際にあったらしく、ニュースか何かで見聞きしたと言っていた。
そこで母親の言葉がフラッシュバックする。みんなが食べ残すエビのしっぽやパセリを好んで食べる私は貧乏人なのか?
◇
ある日、調理実習でシイタケの石づきを切り落として半分に切りましょう、という指示が出た。私は軸の先っぽの硬い部分だけを切り落として、軸ごと半分に切り分けようとした。すると同じ班の友達が慌てて私の手を止めて、石づき落してからよ!と言いながら、傘の下の軸を根こそぎ切り落としてしまった。
「そこ、食べれんで」と言った私の顔を不思議そうに見ながら、「こんなとこ食べんの?」と、その友達は真顔で言った。周りを見渡したらほぼほぼ全班、軸ごと切り落として、生ごみの袋へ捨てていた。
傘の部分とは違う食感が美味しいのに、もったいない。でも言わなかった。あまりにも堂々と、そんなところは食べないのだ!と主張している友達を否定することが、どうしても私には出来なかった。
貧乏人、という言葉がまた脳裏を過ったからだ。
◇
小学生の頃は、自分は自分、他人は他人と思って生きていた。二、三日同じ服装で学校へ行っても全然平気だったし、他人からどう見られているかなんて爪の先ほどにも考えたことがなかった。
中学受験をして私立の女子校へ通うようになり、周りの女子たちとの会話がどうも噛み合わない節があると感じるようになった頃から、自分と他人を比べるようになった。みんなと同じようにすることが普通なんだと思い込んで、一生懸命に話を合わせる努力をした。
そして暗黒の迷走期が始まる。まあ、思春期というのもあって、訳の分からないことを言ったりやったり、いわゆる自分探しを始めたってことです。
迷走して迷走して、そして疲れた。
自分が望んで入った女子校だったけど、いつの間にか矯正施設に入れられているように感じていた。だから卒業した時には嬉しすぎて涙の一滴も出なかった。同じ制服を着た同じ年の女子たちに囲まれて時間を過ごすのは、もう十分。もう結構。お腹いっぱいです、ごちそうさまでした。
◇
やっぱり私はエビフライはしっぽまで食べたいし、パセリだって美味しいと思う。シイタケだって、軸までちゃんと食べるのだ!
ええやん、好きやねんから。
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