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『君たちはどう生きるか』初日午前の素朴な感想

・観てほしい。何一つ茶化しようがない、ひたむきな「生きる」でさえも、バズワードの雑踏に飲み込まれてしまう時代なら、どうか、今。

・すごい、すごい、すごい。

・あのジブリの最新作。
「まあ…上映期間中に機会があれば…」くらいの気持ちでいた、『君たちはどう生きるか』。
しかし、公開前日、つくしあきひと先生のこのツイートを目にして、ハッとして。その場で即、翌日の初日一発目の上映チケットの予約をした。

結論。
観て良かった。
私自身、アーティストの端くれとして、そして、
やがては必ず若く、いずれは必ず死ぬ、平凡なひとりの人間として。

あきひと先生に感謝しつつ、そして、
すこしでも、観たい、あなたもそう思ったなら、できればここから先は読まないでください。
観てください。あなたが。



・宮崎駿監督、82歳。かの人が、82年を生きるとき、これほどまでの景色が見えるのか、そう思った。

若い私にはわからない。
わかりようがないし、わからない、共感もできない、そう感じさせられたこと自体が強烈だった。
だって、この時代に。

私は普通の女の子で、何もかも親切丁寧に15秒で説明されるこの時代をフツーに何の批判性もなく生きている。
あんなに大好きだった本も読めなくなって、ベッドでグッタリしながら、SNSが表示された画面を見つめるだけの毎日。

時代もくたびれたし、私も、きっともう若くはないのだろう。
そう思っていた。
牛歩で確実に枯れてゆくだけの、まったりとした絶望感。

10代の頃みたいな情熱的な死にたさなんてとっくに失って、毎日にこれといって不満もないけど、明日終わったって、別に良い。
どうでも。
わかってくれるかわかんないけど、もしかしたらあなたにもわかるんじゃない?この感じ。

だから観てほしいんだよ。
まさか、まだ、こんな気持ちになれるなんて。
そう思った。

すごい、すごい、すごい。


・ネット施策をほとんど打たなかった(ように見えた)理由がよくわかる。必然的だ。
ジブリ飯とか色々、そういう今や"バズワード"化されてしまった、自分のただ身体であった、かけがえのなかった要素。
それらを、おのれ自身の過剰なまでのデフォルメに化かして、画面を塗りたくりながら(もはや悪夢にさえ見えるほどに)、それでも、
何一つ茶化すことができない、迫力。

それくらい、どの表現もが切羽詰まっていてマジで、
でもインターネットだとまあ茶化されるだろうというのが容易に想像される。ゲーミングカカポのgifとかどうせ貼られてしまうでしょ、きっと。
だから、どうか、観てほしい。

生きているということが、ネットミームに取り込まれてしまう、その前に。



以下、ことネタバレを含みます



・人生だな。人生だな…
すごいものを見た。

誰も継がなかった。
継げなかった。
あとはただ、

私と共に滅びゆくだけの、私の美しい庭。


・怖い。そう思った。

最初にちらと述べたが、この文章を書いている私は一応アーティスト活動11年目の端くれで、もちろん彼ほどでかい城を築く予定はないけれど。
みんなはわかってくれないということを既によくわかっていて、世界のいろんなことが許せなくて。
カルトでいい。もう、カルトでいいから、争いばかりの現実を捨てて、方舟を作るしかない、わたしたちで小さくとも美しい箱庭をやろう、そんなふうに覚悟を決めているその一人である。

私は、自分が死ぬ間際に、こんなに全てを受け入れられるのだろうか。


わからない。
それはまだ私が精神的にも実際若すぎるからだと思うけど。

私が古くなる。私が過去になる。私が滅んでいく。
自分にとってだけは、それでもこんなにもかけがえのない、自分なのに。
それでも、あなたには帰る場所があるようだ、そう言って、若いひとの背に、私は手を振れるだろうか。

死ぬのが怖い。


・あと、細かいところだけど、妹の部屋の過剰なまでの豪奢さ、こわかったな…。
真人くんの部屋、ただでさえ最初に通された時からお金持ちの一人息子の部屋なのに…なんかしょぼい…小間使いの部屋…?なんて思ってたから、扱いの差に思えて、ショックを受けてしまった。
その後の流れによって、あの豪奢さは、どこか空虚にも思えることになるんだけど。

あのお父さんが失踪した真人と一瞬再会して転びそうなほどの勢いで駆け寄ったシーン、安堵で目が潤んだもの。
ああ、真人くんはひたすら孤独を感じているけど、お父さんは真人くんのこともちゃんと愛しているんだな、って。

・真人くんは、あの美しい箱庭の栄華と滅亡について、異世界冒険譚のテンプレートに反して、実世界に帰っても忘れはしない。
駿監督の祈りだな…なんてエモ用語を用いればあまりに軽いけど、言ってしまえば良い意味でちょっとナンセンスな我儘という感じがして、私はとっても好きだった。
これほどでかい城を建てて、これほどの石を積んで、それでもちゃんと、人間なんだ。人間でい続けようとしてくれるんだ。

「まずいよ。普通みんな忘れちまうものだよ」と、照れくさいような、鳥男のニヤリ顔が、駿監督の表情そのものに感じられて。

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