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第30回カレリア語【ヴィエナ方言】 独学記録 - 3人称複数形を用いた受動表現(不定人称文)

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カレリア語のうち、本カレリア方言-ヴィエナ方言を学ぶページです。
方言分類に関してはこちらの記事をご参照ください。
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不定人称文(3人称複数形を用いた受動表現)

さて、受動表現を学びましょう。
例えばこのような文章があるとします。

Hyö paissetah kalakukkuo koissa. 彼らは家でカラクッコを焼いている
Hyö rakennetah kyly kešäkši. 彼らは夏にかけてサウナを建てる

これは3人称複数形現在の能動文ですね。
この文から主語 Hyö を取ってしまうと、どうなるでしょうか。

Koissa paissetah kalakukkuo. 家でカラクッコが焼かれている
Kyly rakennetah kešäkši. サウナは夏にかけて建てられる
(少し語順を変えています)

これらの文章では、誰がカラクッコを焼いたのか、サウナを建てたのかは話題にしていません。カラクッコが焼かれているという事実、サウナが建てられるという事実自体を話題にしています。

ちなみに kalakukko カラクッコは、パン生地に小~中魚を丸ごと何匹も重ねるようにして包み焼いたパンのこと。ライ麦生地のパンがほとんど。お肉まで一緒に入れてしまうこともあります。kala は「魚」、kukkoは「閉じた(包み込んだ)パン」を意味します。

主語を示さずに動詞を3人称複数形で表したこうした文章は、不定人称文と呼ばれ、しばしば受動の意味合いで用いられます。
誰がその行為をしたかが問題ではなく、行為そのものや内容を問題とする場合に使われる表現です。

不定人称文の目的語

先ほどのサウナの文章を例に確認していきます。

第19回 目的語でも学びましたが、通常目的語のほとんどは分格で表します。
能動文(主格主語がある文)において、
・肯定文で
・動作が完了している(あるいは完了が確実に見込まれる)
・個体名詞(行為の影響を受けるのが全体)
の場合、目的語は対格になりました(④→⑤)。

ただし3人称複数形を除く、という注意書き付きでした。この④→⑤に該当する例はこんな文を挙げることができます。
Mie rakennan kyly kešäkši. 私は夏にかけてサウナを建てる

3人称複数形や、主格主語のない文章ではどうなっていたかというと、目的語を主格で表していました(④→⑥)。
Hyö rakennetah kyly kešäkši. 彼らは夏にかけてサウナを建てる
Miun pitäy rakentua kyly kešäkši. 私は夏にかけてサウナを建てなければならない

不定人称文の場合もこの場合 ④→⑥に該当し、目的語は主格で表します
Kyly rakennetah kešäkši. サウナは夏にかけて建てられる

当然ですが、否定文の場合は目的語の分岐点①の時点で分格と判断します。
Kylyö ei rakentua kešäkši. サウナは夏にかけては建てられない

例文/応用

Japanišša paissah japania. 日本では日本語が話される
Karjalašša opaššetah karjalan kieltä. カレリアではカレリア語が学ばれる
Šuomešša juuvah äijän kahvie. フィンランドではたくさんコーヒーを飲む
Stola šiirretäh nurkkah. 机は隅に移動される(誰かが机を隅に移した)
Pojalla oššetah polkupyörä. 少年に自転車が買われた(誰かが少年に自転車を買った)
Tuolla rakennetah uuši šairala. あそこに新しい病院が建てられる
Miun nimi kirjutetah näin. 私の名前はこのように書く
Illalla kerrotah šuarnoja. 夜には物語が語られる
Kizhin šuari tiijetäh koko muailmašša hyvin. キジ島は世界でよく知られている
Karjala ei tiijetä Japanišša hyvin. カレリアは日本であまりよく知られていない

学習後のつぶやき

カレリア語の文法において、動詞の「受動形・現在形/過去形」はありません。この3人称複数形が該当します。もともとは「受動形」と呼ばれていた形が、3人称複数形として落ち着いたようです。3人称複数形だけ、語幹の作り方が異なるのも納得できますね。後に学んでいく条件法、可能法でも同様。「受動形」と呼ばれる文法事項としては「受動形完了形」のみ・・・と思われますが、引き続き確認していきます。

>> カレリア語【ヴィエナ方言】 独学記録 - もくじ

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