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『闇の底にて与えられん〜発達障害の陰陽』第8話「コンサルティングの結果」(note創作大賞ミステリー部門)

コンサルティングの結果

車で20分ほどのデパ地下で、菓子折りを選ぶ。

コスパを考え、リーズナブルで、その割に高く見えるもの。
小夏ちゃん家は3人家族だから、個包装の6個入りにしよう。

ちょうど秋の味覚、栗の期間限定商品も出ているが、割高なので避ける。
こういうことは、妻の千佳には任せたら、予算オーバーしてしまう。

主婦なんだから、これぐらい自分でやって欲しいんだけどな。

帰宅して、千佳に聞く。
「お前まだ赤賀さんにメッセージ送って無いのか?」

「え…?」

「赤賀さんに報告しとけって言っといただろ。俺が出かける前だよ!」

千佳の仕事の遅さには、いつもイライラする。

今から報告しろと言ったって、遅い。千佳と話してる時間が無駄だ。

「もういい!俺がやる!」

階段をダダダと上がって、菓子折りの紙袋を持ったまま自分の部屋に向かい、
iPadで文章を作成し、SNSグループへ投稿した。

「玲二がお友達の女の子に怪我をさせてしまった様です。
コンサルを願いします。」

赤賀さんは、すぐにお返事を下さった。
「急ぎがいいですね。今日の3時〜なら可能です。」

「それでお願いします。」と送信した。
ほら、これだけで済むことなのに、千佳がいると進まないんだ。


赤賀さんご夫妻の子育てコンサルティングを受け始めた頃は、まだ覚が3歳で一人っ子だった。
発達障害の疑いのある覚の子育てに困り果てていた俺たちは、赤賀さんご夫妻にずいぶん助けていただいた。

今年でもう13年目に入るが、今では玲二の子育てや夫婦関係、金銭問題、健康面、生活環境、、、家族丸ごと何でもご相談させていただいている。

当初、覚は言葉が遅くて、伝えられない不満から時々癇癪を起こしていた。
真未さんが「語りかけ育児」という本をご紹介くださって、千佳が本の内容を毎日実践した結果、
今では普通に会話できるように育った。

それからは、赤賀さんご夫妻にアドバイスをいただきながら、覚を育ててきた。

療育センターで発達検査を毎年受けるようになり、
療育トレーニングに通い、入園の時には保育園に加配をお願いし、
家でも室内環境を整え、絵カードを使うなどした。

俺はあまり関わらなかったが、千佳は真面目に取り組んでいた。

就学時も、千佳は事前に何度も小学校に通い、入学式の準備もしていた。
運動面も苦手で、療育センターの医師から勧められ、感覚統合療法のトレーニングにも通っていた。

読字も苦手で、書字はもっと苦手だったから、LDセンターでのトレーニングにも通った。
眼球運動の検査やビジョントレーニングを受けた。
読み書き検査の結果、小学校高学年では、校内でただ一人iPadを持ち込み学習した。

進路については、中学2年生の早い段階から、オープンスクールに通って準備した。
学習面では全くやる気も無く、成績は底辺だったが、
穏やかな性格が評価され、推薦枠をいただいて何とか合格できたんだ。

もし、俺たち夫婦だけで育てたとしたら、どうなっていたことか。


子育てだけじゃない。

俺は公務員の仕事が辛くてたまらず、千佳が覚を妊娠していた臨月の頃に退職し、覚が2歳になっても再就職もせずにいた。
貯金を切り崩す生活が不安だったから赤賀さんに相談し、俺の実家に同居することになった。

二世帯住宅だったが、嫁姑問題で妻が家出したりして、そのとき赤賀さんに「このままだと妻子を失いますよ」と厳しく注意されて、やっと就職することが出来た。
今、家賃がかからないので、給料が低くても生活ができる。

それに、俺は自分の両親と折り合いが悪く、親側から縁を切られる寸前だった。
同居後は、父母共に覚を可愛がり、子育てを手伝ってくれる両親と俺は、徐々に打ち解けていった。
そして母が亡くなる時には、在宅介護ができて、父と共に千佳と覚が看取ってくれた。

次男の玲二の子育てでは、長男の時の反省やアドバイスを生かすことができた。
出産当日から千佳が「語りかけ育児」の本の通りに実践し、
俺も毎日15冊ほど絵本の読み聞かせをしたためか、語彙力の高い子どもに育った。

赤賀さんのアドバイスに従って、俺は育休取得し、
高齢出産になった千佳のために、シルバー人材センターに家事ヘルパーさんをお願いした。

さらに玲二は、真未さんのアドバイスにより、2歳半から入園までの半年間、
近所のアットホームなモンテッソーリ園に通わせた。
もともと数に興味があった玲二は、公文式にも通わせていないのに、計算力含め算数の成績が学年1位だ。

ここ半年間は、真未さんにリフォーム業者と片付けコンサルタントを紹介してもらい、自宅の修繕と断捨離、部屋割りの変更、家具と家電の買い替えが出来た。
10年以上、散らかっていた我が家は、モデルルームのようになり、各自に個室がある落ち着いた室内になった。

今までの赤賀さんご夫妻のコンサルティングの結果は、明らかに素晴らしい。

だからこそ、妻の、コンサルティングを止めると言う考えが全く理解できない。

千佳は、論理的に考えることができないのか。

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