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本当の「平家物語」をそろそろ読んでおくためのブックリスト:これでいい篇。至高の灌頂巻をあなたはまだ知らない。

入門として、こちらの記事を書きました。

今回は、もう少し深入りしていきます。「これでいい」んじゃない?レベルです。

イントロ

原文を読むための資料も挙げますが、現代人にとって、古典を古文のままで読むのは、容易ではないことはお分かりだと思います。高校の時に苦しんだ、古典文法・読解を駆使しなければなりません。社会人ともなると、高校時に習った古典知識をほとんど忘れているでしょう。古典文法のやり直しを、「『平家物語』を読む」に含めるならば、それは数年スパンでの長期プロジェクトになります。ここでは、このような長期プロジェクトを提案しません。

最終目的である現代訳

この本を最終目的と捉えます。
スゴ本さんでもおすすめされています。
なぜこの本なのか、その理由は次のとおり。

  • 口語訳として一番最新である。

    • ※ 2016年出版。他にありましたら調査不足です。

  • 『平家物語』の完全な全文の口語訳である。

    • 抄訳になっている箇所はなく、全文が訳されている。

  • 現代日本の『平家物語』の文体を持っている。

    • 注要らずの内容に加えて、語りの文体で貫いている。単なる現代語訳だけに収まらず、むしろ現代に『平家物語』は書かれたといってもよいくらい、文体が現代語であり、整っている。

    • 実際に注はありません。

  • 至高の灌頂巻を現代語で味わえるのはこの本だけ。

    • 『平家物語』で、灌頂巻はいわばオチ。ここを読まずして、『平家物語』を読んだとは言えません。それにも関わらず、灌頂巻は、翻訳本では、事の成り行きだけを述べられ、多くの部分が端折られます。古川訳はしっかり灌頂に至る構成が取られています。

この翻訳の方針は、河出書房 新装版(池澤夏樹 個人編集) 日本文学全集のシリーズの特長でもあります。『源氏物語』を角田光代さんが担当され、2021年1月に『源氏物語 下巻』(上/中/下)をもって、シリーズが完結しました。

でも『源氏物語』はいいんです。なんども、与謝野晶子さん、谷崎潤一郎さんをはじめとして、なんども口語訳が行われています。『平家物語』は、全文の口語訳の出版は、ほとんどありません。

このため、古川訳が現代訳で読む時の決定版になってしまうのです。

他にもある現代訳

翻訳ではなく、リライトです。比較的コンパクトにまとまっています。現代語版 小説「平家物語」なので、読みやすく、注を引かなくてもスラスラ読めます。
もともとは講談社シリーズ古典3(2001)でした。この"シリーズ古典"も「栗本薫の里見八犬伝」(現「里見八犬伝 (21世紀版・少年少女古典文学館 第21巻)」)なんて特色あります。

原文を読もうと考えの方は

「もしかして原文を読むかもしれない」と検討の方は

迷わず買っておきましょう。
出版元である中道館が倒産したため、ユーズド市場に残っている本でしか入手できません。学参に分類されるため、図書館には所蔵されていません。この"古典新釈シリーズ"は、学習参考書としての文法解説、品詞分解が、通読書では書かれないほどに充実に注解されています。全文が載っているわけではありませんが、『平家物語』のイイトコを抜粋して掲載されています。すでに書店では品切れになっており、立ち読みできる状況がありません。目次と序文をアップしておきます。不都合がありましたらご連絡ください。

古典全集

新潮 日本古典集成、小学館 日本古典文学全集を使いました。どちらも使い勝手がいいです。

※ 岩波書店 日本古典文学大系は専門的すぎて、わたしには読めません。

  • 新潮 日本古典集成 平家物語 (新装版) 上/中/下 

    • 新装版と旧版の違いはありません。

    • 新潮社の古典集成シリーズは、原文は全文載っており、ルビで部分訳がところどころに添えられている体裁です。本文の上段に注がついています。だだし全訳は載ってません。原文を読みつつ、ルビで分かりにくい箇所を補いながら読めます。集成シリーズの利点は、本のサイズが四六判(188mm×130mm)と手に馴染みやすく、また、原文を読もうと心がけられる構成、なところです。わたしは、集成シリーズがお好みです。

  • 小学館 新編 日本古典文学全集45,46 平家物語

    • 旧版でも内容は変わりません。新編は2色カラー、旧版はモノクロの違いがあります。

    • 上段に注、中段に原文、下段に現代訳、というスタイル。全訳が載っており、現代訳もあわせて読まれる方には読みやすいでしょう。1ページ内に注、原文、現代訳が並んで掲載されているため、本のサイズは大きく菊判(150×220mm)です。

    • このシリーズを1冊も持っていません。必要な時に図書館で調べます。

事典・ハンドブック

  • 平家物語図典,‎小学館, 2005

    • 専門家向けではないけれど、卒論では十分すぎるレベル。文化・歴史的背景の説明が載っています。平安期の資料は『源氏物語』に寄りガチなのですが、この本は『平家物語』に焦点があっています。『平家物語』を読む上で知っておきたい、平安末期の政治・文化が揃っています。類書に源氏物語図典があります。体裁はどちらも同じなため、源氏物語図典のレビューが参考になります。

  • 図説 平家物語 (ふくろうの本),河出書房新社,2004

    • 河出書房の図説シリーズ

    • 平家物語の挿絵集として使いました。文章を読んでいくというよりも、写真、図、絵を眺める使い方に向いています。

  • 平家物語必携,学燈社,1985

    • 玄人・専門家向けに『平家物語』の詳説・評論・参考文献が載っています。当然難しいのですが、副読本として非常に面白いです。読み応えありです。出版が古いため、新本はありませんし(版元倒産)、ユーザレビューもネットではみつかりません。この本レベルの記事は、この本以外では論文しかありません。情報源としてはこの本がもっとも密度があります。

    • たとえば、「平家物語の理念と方法」という記事では次のテーマが選ばれて解説されています。

      • 盛者必衰 / 恩愛 / 叙事と抒情 / 無常 / あわれ / 批判精神 / 修因感果 / 道理 / 史実と虚構 / 死生觀 / 運命 / 自然描写

  • 平家物語ハンドブック,三省堂,2007

  • 平家物語を知る事典

和歌に関して言えば、

ような書籍があります。

最後に

「これでいい」んじゃない?レベルを挙げさせていただきました。硬派な選出をしていると思います。これら候補から、数点を読まれれば、『平家物語』の素人レベルでは卒業としてもいいはずです。

なお、今回は、文庫は除外しました。


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