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長野県学校司書の皆さんとABDをしてきました! 〜中学校ABD番外編②

8月1日、長野県学校司書の会の方にお声がけいただき、「夏の学習会」第2分科会にて、長野県内の小中学校の司書さんたち20名とABDを行いました。

こちらの夏の学習会は、開催は今年で41回目という、長い歴史があるとのこと。
ついにABDの活動を県内全域の方にお伝えする機会をいただき、とても嬉しかったです。

きっかけは昨年、塩尻中学校の司書の先生が「司書研修」として自主的に開催してくださったABDでした。参加したほかの先生から「県の司書が集まる学習会でもやってみたい」ということで、実現に至りました。


読んだ本『冒険の書』

今回は分科会ということもあり、時間はやや短め。そのため当初は「簡単に読めて、どこの小中学校にもあるような児童書で・・・」という依頼でした。

でも、せっかく司書さんが集まる会なら、本の内容が濃ければ濃いほど面白い学習会になるという確信がありました。
そこで「ぜひ、先生方が読みたいテーマの本でやりましょう!」と、図書館経営や学校、SDGsなどがテーマの書籍をいくつか提案してみました。

そこから役員の先生が選んでくださったのが、『冒険の書』(孫泰蔵著、日経BP)です。
こちらは、昨年大人向けもやり、子どもたちともやった、私にとってはおなじみの本です。

昨年の塩尻中学校で使用した本。

実施にあたっては、いつものように本を割くのではなく、なんと県内全域の図書館や学校から20冊をかき集めて実施しました。
司書さんたちのネットワークに感謝です。

結果としては、この本を選んで大正解でした!
本の内容も議論テーマも司書さんたちに刺さったようで、とても盛り上がりました。

学びのプロによるABD

当日の様子ですが、さすが普段から本に「学びのプロ」として関わっている司書の先生たちです。集中力から議論に至るまで、過去一スムーズに行ったといっても過言ではありません。

コ・サマライズということで、本を配って読み始めるやいなや、一瞬で集中モードに入り、どんどん読み込んでいきます。

読んでまとめた内容をリレー・プレゼンで発表する時も、時間が1分と短いにもかかわらず、ほぼ全員時間厳守でした。1分で話し切るのは私も苦手なのに・・・!

サマリーも、本の要点を押さえていて、本当にわかりやすかったです。

ダイアローグは4グループに分かれて、それぞれ「本から浮かんだ問い」について語ってもらいました。

あるグループは、明るい雰囲気で、それぞれが書いた付箋を分類しながらすごく盛り上がっていました。また別の場面では、本から感じたことを踏まえて自校の様子を熱意をもって語り、それにみんなが聞き入る場面も。
本の内容に衝撃を受けたことを共有したり、自分たちが今できることを語りあったりするところもあれば、頻繁に会話を回して笑い声が絶えないグループもありました。

右の2枚:リレープレゼンの様子。左3枚:ダイアローグの様子。

どの先生も興味と熱意をお持ちで、とても前向きに取り組んでくださいました。

短い時間であっという間に駆け抜けましたが、先生たちからは「楽しかった!」という感想をいただけました!
初めてのABDを楽しんでいただけたことは何よりです。

また、終了後に個人的に気になったことをアンケートで投げかけてみました。

学校ABDの課題

今回の学習会では、ただABDに興味があるというだけでなく、「学校現場でどのように活用できるか?」という課題感をお持ちの先生がほとんどだったように思います。

依頼段階で最初に抵抗があったのが、「本を割くこと」でした。
終了後の質疑応答でも、「本を割かずに実施する方法」について質問がありました。おそらく普段から丁寧に本を扱う指導もされている以上、学校で本を割くという行為に抵抗があるのはわかります。

今回は各地域から本を集めての実施になりましたが、いつでもそうできるとは限りません。

ただ個人的には、大人数でいっぺんに一冊の本を分担して読むというには、本を割くのがいちばんてっとりばやいです。
そのうえで、ゲラを使ったり、本でないもの(プリントとか、コピーできる文章)を使ったりもできることをお伝えしました。

ほかにも、一通りABDを体験した後に「今後、ご自身の学校・職場環境でABDを活用できそうですか?」という項目でアンケートを行い、その理由を書いてもらいました。

・図書館の授業が無いので、まずは国語などで先生のご理解を得られることができれば、できそう
・司書教諭の先生と情報を共有してから、考えたい
・司書なので、授業で取り入れることができない
・一コマが45分なのでどうやってやるか?を考えないといけないなぁと(小学校の先生より)

独自アンケートより抜粋

回答数が少ないので参考程度ではありますが、活用に関してはほどんどの先生が「部分的にできそう」という感想を持たれたようです。
ただその理由については、「できそう」「できなさそう」のどちらを選んでも、同じような理由が書かれていたのが印象的でした。

アンケートから大まかにわかった課題は、下記の2つです。

1.司書が中心となって行う時間(授業)がない。

普段、学校司書さんたちは、授業に直接かかわるというより、読書活動や学習の補助的な役割を担っておられます。環境にもよりますが、司書中心で活動する時間がない場合、実際にやるまでにはさまざまな調整が必要になりそうです。
たとえ「子どもたちとABDをやってみたい!」と思っても、普段の業務に加えて推し進めるとなると、なかなか大変そうです。

現状、私が授業をさせていただいている中学校では、授業計画から実施、細かな変更は、講師である私にほぼ一任されています。そのことは本当に大きく、塩尻中学校の環境には感謝です。

実施にあたっては、自分の裁量で行える環境が絶対に必要です。
授業ですぐに行うのが難しくても、それが可能な範囲ではじめるのがいいかもしれません。
例えば、「授業ではなく特別なイベントとしてやってみる(学童、夏休みなど)」「まずは少人数でやって、その場で活用法を考えてみる(職員会、保護者会、部活など)」などが思いつきます。

2.ABD一回にかかる時間が長い。

今回のABDは1回120分なのに対し、小学校の授業は1コマ45分。
塩尻中学校で実施する際は、110分の授業枠をいただいています。しかし、特に小学生にとっては授業時間が足りないだけでなく、集中力も持たない可能性が高いです。

その場合は、1回で完結するABDを無理に行うのではなく、要素を取り入れることはできそうです。

例えば、ABDのコ・サマライズやリレープレゼンの要素を取り出して、「本をパートを分けて読む」「内容をひとことで発表する」などをしてみる。
質疑応答ではこうした事例を紹介してみました。

ちなみに、現在私が行っている授業には、
・対象が中学生(長時間の授業に耐えられる)
・1回の授業時間が110分、かつ約10回の連続講座である
・地域に塩尻市立図書館という大きな本棚があり、協力が得られる
・講師にすべての計画が一任されている
という、本当に恵まれた環境があります。
それ自体はとってもありがたいことですが、これが全部そろわなければ実施できないのか?といえば、もちろんそうではありません

私は自分以外の現場を知らないので、私の授業は本当に一例でしかありません。環境によって、さまざまな工夫ができます。
そして、その工夫や活用法を考える過程こそ、その場のABDを楽しく成功させるには欠かせない要素だと思います

例えばですが、ある学校でABDを授業化したところ、義務になってしまい、子どもたちがやる気を失ってしまったという例も聞きました。
取り入れる際には、やる気やモチベをどう維持するかを考えることが重要になりそうです。

一番大事なこと

机にペンがあるとつい立てちゃうのは、子どもも大人も一緒!

また今回の質疑応答では、「間違った内容を要約した子がいたらどうするか?」という質問がありました。
これは私の場合なのですが、そもそも私のABDでは「本の内容がだいたいわかればいい」ことを目指しているので、「正しく要約する」ことは重視していません

その理由として、ABDの設計上の利点があります。
例えばコ・サマライズ(要約)では基本的なルールとして、「本の言葉をそのまま書く」というルールがあります。このため、ちょっと必要な要素が抜けたとしても、文字通り書いていれば大きくは逸れません。
また一人が間違っても、他の人が要約した部分とのつながりで情報が推察できるということもあります。

またもう一つの理由に、要約・発表・対話などさまざまな能力の向上以上に、本を通じて何に興味があるかにアンテナを貼ってもらうかを授業の目的にしている点があります。

子どもによって得意不得意があり、都度、「コ・サマライズで間違えたな」とか「プレゼンは苦手だな」と思う子はいるでしょう。
それでもやっていくうちに、他の人の真似や慣れによって、それらは必ず向上していきます。
なので、その子のレベルに合わせて授業に協力してもらっていればOKです。

あくまで私が重要視しているのは、本が今後の自分の人生でどういうふうに使えるか、という幅を広げることにあります。

ここ数年の授業を通じて思うのは、多分子どもたちはもっと自己表現をしたいんだろうなということです。

塩尻中学校の授業では、私が選んだ本を読むだけでなく、「自分で読む本を選ぶ」→「選んだ本を他の人に紹介する」→「紹介された本からさらに一冊を選んでABDを企画する」という段階を踏みます。

希望者を募る授業とはいえ、半ば義務として要約や発表の練習をさせられることは、初めてやる人も多く、たぶん苦しいはずです。
ただそれ自体が目的じゃなく、子どもたちが「本が自己表現になる」と思うからこそ、モチベーションがある程度維持できるのではと思い至りました。

一番重要なのは、子どもたちにとって、ABDに取り組む理由があることなのだろうと思います。

要約や発表、対話を繰り返すABDは、確実に子どもたちのスキルアップにはなります。でもそれを繰り返すだけじゃ、たぶん飽きてくるでしょう。
ABDをせっかく実施するなら、興味がある状態をなるべく長く維持する工夫があるといいですね。

繰り返しになりますが、私は自分の事例をお伝えすることしかできません。
でもABDにはたぶんもっといろんな活用法がある気がします。

いつか、新しい活用法を発明した方にお会いしたいです!

短い時間でしたが、ご参加いただいた先生方、およびいただいた役員の方、ありがとうございました!

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